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蛇か龍か


「ちちうえ、おねがいがあるのですが。」

先ほどまでの空気を、打って変わって打破するようににこりと、雪之丞は子供らしい笑顔を向ける。その相手は己に大してではない。障子の向こうで待機を続ける忍にだ。

「言うてみよ。」
「じゆうなてあしがほしい。せかいにはしるあしが、かかえるためのてのひらが。」
「・・・・・・詰まる所は?」
「こんをいただきたい。」

無垢そうな顔の下に潜むのは、まだ若き伊達の龍か、それとも蠢く蛇の子か。4歳になったばかりの子供にしては静かすぎる己の子供に不安と若干の恐れを抱かざるを得ないのだ。虎視眈々と嫁いでも天下を狙う義のようなかわいらしい闇ではない、何も無い虚無をその瞳に除き見た日から。

「さて、紺とは?」
「・・・とびらのむこうに。」
「紺とやら。・・・雪をよろしく頼むよ。」

その応えに顔を輝かせた我が子に、いつの日にか見た虚無は既にない。掴み所の無いのは生まれつきだろうか、その言葉の真意は我が子以外には解らぬだろう。だが、この子供を伊達に留めるための布石となるなら、忍びの一匹程度構わぬ。問題は、その足を使ってこの子供が悪さをしなければの話だが。

「悪さなど、せぬように。」
「はい、ちちうえ。いたずらなどわたしはいたしません。」

無邪気に笑う子供が龍に成る事を、心から願う。そして願わくば伊達を支える二対の龍に成らん事を。

「期待しているぞ、雪之丞。」


蛇か龍か

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