碧と蒼 あの事件が起こってから、兄はぱたりと己に会うのを止めた。大人たちの間でも俺の無意識に発動したその力の事で話し合いがされていたのを知っている。 「なんなの・・・」 分からない、わからない。元の世界にはこんな力なんて無かった。ここで今まで過ごして来た日のなかにも、先日のような力の片鱗も己には無かったというのに。 ちいさな紅葉のような掌を開いて閉じる。あの騒動以降、微量ながらその異質がふとした拍子に顔を出すので、兄が来ないのは有り難いのだが。最後に紺に抱えられた腕の中で見た兄の目が忘れられなかった。 「こわい、んだろうな。」 ぽつり、と呟きながら開かれた掌の中で小さな氷の結晶が高い音を立てた。 「・・・雪之丞様。」 「なぁに、こん。」 「輝宗様がお呼びです。」 「・・・じゃあ、いこうか。」 連れて行ってくれるんでしょう、と紺に向けて微笑み、掌の氷を床に放って紺の前に手を差し出す。彼ならきっとこの掌を取るのだろうと信じて。 「・・・仕様の無い人だ。」 溜息を吐きながらも、己の掌を案の定取った紺の腕に抱かれて父の部屋に向かう。久しぶりに顔を合わせる父の顔なのだが、どうにもそれは気の進まないものであった。 「・・・早かったな、雪之丞。」 紺が俺を立たせて、そのまま父の前に跪く。俺も父の前に身を正し、以前より重い襖を開けた。 「およびですか、ちちうえ。」 「いや、賢い雪の事だ。もう気づいているのだろう。」 じろり、と己の子だというのに顔を通して、心まで見透かすような瞳に苦笑する。わざとらしい子供らしさもこの父の前では子供騙しにしか見えておらぬのだろうか。 「なんのことでしょう、ちちうえ。」 「・・・先日の件だ。その、力のな。」 「このちからはおかしいの、でしょう?」 掌から碧い光とともに漏れ出る冷気。それに父は苦笑する。 「何れ梵にも目覚めよう。近頃片鱗が見え隠れしていたからね。まさか覚醒が雪の方だとは思わなかった。」 「かくせい?」 「我々の中には一部の者しか授からぬ異能がある。伊達の血に連なるのは雷の異能。」 「いかずち・・・」 「そして雪の母の、北条の血に連なるは氷の異能。」 「ははうえも、つかえるのですか。」 「いや、蜜には使えぬ。義は最上方の光の異能を少しばかり使えるようだが。」 ただ、強さが違うのだと父は零した。力が目覚めるのはごく少数、才の無い者や目覚めぬ者がほとんどである。力の目覚めはあっても、能力が大きい者は稀にしか生まれない。それが常であるというのに、目の前の己の息子は歳、若干の四にしてその異能を開花させた。 「もう少し早く生まれておれば・・・。」 「わたしは、あらそいはきらいです」 「そうか、誠に聡明な子よ。」 「伊達の為に、その力使ってはくれぬか」と告げた父はどこか憂いを含んだ顔をして、己を見た。それの答えは心にあるが、国主である父の前では、第二子である自分はそれに応じるしかないのである。 碧と青 back |