中編:海賊♂ | ナノ


例えば醒めぬ夢なら


「おい、生きてるか。」
「・・・当たり前です。」

そりゃ良かったなぁ、と無感動に言われる男の目は酷く不安げだ。それもそのはず。今の俺の姿は見るも無惨だからである。生意気いってインペルダウンに収容されたは良いのだが、やはり目の前の男とは違う階に収容された俺は、まぁ男の居る階に降りようと、そりゃあ散々な事をして、その分だけ散々に痛めつけられた。結局始めに収容されたレベル3からいくつか階を降りてくることになり、クロコダイルがいるインペルダウンの最下層の1つ上の層まで降りてきたのだ。階を重ねる事に酷い刑罰があるというのだから、最下層にいる男が無事かどうか、できれば男の傍にいれないか、という動機でここまで降りてきた奴は俺1人だろう。

「なんでこんなにボロ切れみたいな風貌してやがる。」

怪我は切り傷、刺し傷、火傷、様々なものが身体につきまくっているのだから、ボロ布、といった表現は酷くぴったりなのだが、その言葉に少しちくりと胸が痛む。馬鹿な奴だ、と言う声が上から振ってきて、また酷く落ち着かない気分になる。

「馬鹿な事はするなと、言っただろうが。」
「・・・はは、馬鹿なもんで。」

3階からここまで降りてきちゃいました、と舌を出してみれば、男は長い指で舌をつまみ上げて、いつもの口調でまた"馬鹿め"と呟いた。その指が、前に見た時よりも明らかに痩せているのをみて、その事になぜだか悲しくなり、摘まれた舌が酷く乾いた。

「勝手に死ななかっただけ、褒めてやる。」

摘んだ舌を指で嬲りながら男は前と同じ目をしながら笑った。金色の瞳が薄暗いインペルダウンでぎらりと揺らめいたように俺は見えた。

「・・・サー、」
「残念だが、今は急いでいる。 さっさと準備しろ。」

ジャラリ、と無機質に転がされたものは己の腕を縛り付ける鎖の鍵のようだ。 同室に収容された海賊達がこぞってその鍵に群がる。

「まだお前の他にも馬鹿な野郎どもが捕まってるようだからな。行くぞ、ナマエ。」

久方ぶりに聞いた、己の名前を紡ぐ彼の声。引かれた腕に、まだ鎖が着いていることに気付いて鍵を奪いに戻ろうとすれば、サーは至極面白そうに喉を鳴らす。

「おい、鍵なんかなくったって、俺はただの手錠くらいなら外せるぞ。」

ひらひらと手を振る彼の腕には海牢石の手錠なんて無骨なものはなく、要するに能力でそんな手錠ごとき簡単に外せると言いたいのだろう。そんな事も忘れたのかと言わんばかりに、クロコダイルの唇は優美に弧を描くようにつり上がっていた。

「・・・お前はそれとも、ココに残りたいか?」
「そんなワケねぇじゃん。 まぁ、アンタが残るって言うんだったら残るけど?」
「クハハ、馬鹿が。」

思い切り馬鹿にした口調でこちらを一度じっと見つめてから、颯爽と身を翻し、歩き始める男に続くようにして走る。

「・・・これからどうするの?」

ぞろぞろと続くおかしな男共に、さも当然と言わんばかりに合流する。どういう事だと、クロコダイルのほうを見遣れば、眉間に少し皺を刻んでいる事から、この人たちと行動を共にしているのは、誠に不本意だといわんばかりである。それでも嬉々として周りの看守達を能力で切り裂いていくクロコダイルは、水を得た魚のように生き生きしていた。

(・・・彼はこうでなくっちゃ、ね)

階段を上る内に己の中でも鮮明になってくる感覚。隣で滑るように砂の能力を発動させて先陣を切っていく男もまたそうなのだろう。

「・・・お前は考えなくったって、黙って付いてこりゃいい。」

振り返りぎわに、先程の返答をいつものように高圧的に返される。いつだって貴方は、俺の一番欲しい言葉が分かっているのだ。

「言われなくとも・・・!」


終わらない夢ならば

どうか覚めることのないように

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