オールクリア、ゼロ地点 俯き、笑うクロコダイルにかける言葉が見つからない。 いつだって高圧的だったその瞳が涙に歪んでこちらを見る。 「なぁ、」 何故こんなに声が空虚に聞こえるの? そんな無様な格好は似合わない。自分はいつだって高い所で見下した目をしていた貴方しか知らない。こんな貴方を、自分は知らない。 海兵がクロコダイルを囲んだけれども、それでも自分はその場から動かなかった。否、動けなかった。こんなに弱りきった貴方を今度は自分が見下ろしている。風土のせいで嫌に無駄に伸ばした己の髪がぱさついて顔にかかる。 嫌に変な気分。明らかに強そうな正義を背負った男達がこちらを目を細めて見る。 「なぁ、サー。あんたの望んだユートピアってなんだったのさ?」 変わらないものを望んだ俺は間違っていたのかな。それとも変わろうと努力しなかった俺に神様が与えた罰? 「さぁな。とりあえず、こんな結末じゃなかったのは確かだな。」 小さく呻いた彼の声は、前に聴いた声色と変わらないもので少し安心した。クハハと薄く漏れる笑いに周りの海兵たちは居竦んだ。なぜなら牙を折られたと思いこんでいたクロコダイルの瞳は、心底面白そうに歪められていたからだ。 (今、昔の顔してる。)彼が七武海に入る前の、怖い顔。 「安心した、サー。 あんたの牙は折れちゃいなかったんだ。」 そして俺の牙も折れていない。ただ、長い冬に眠り続けていただけ。 爬虫類ですから。 「捕まるんだったら、同じ階がいいよなぁ。」 インペルダウン、サーが捕まるんだったら五階あたりだろうか。地獄を見る覚悟なら以前からもう既に持っている。 「ナマエ、」 「なに?」 「馬鹿なこと、考えてるんじゃねぇぞ?」 そういって顔を歪める彼は、どこか楽しげだ。相変わらず、窮地に笑う癖は直っていないらしい。 「愛してるよ、"クロコダイル"」 「!!」 「だから、俺を失望させないで?」 貴方の馬鹿にはいつだって付いていくから。無茶な命令だって、命を貴方に捧げる事だって俺には出来るから。だから、俺を失望させないで。 「クハハ、手厳しいな、」 「当たり前、だてに長い付き合いじゃないでしょうが。」 貴方が居れば何処にだって俺は付いていく。死ぬ覚悟はできていても、貴方から離れる覚悟は出来ていない。だから、自分は久しぶりに構える刃に高揚する。 この状況で戦うなんて、なんて馬鹿なんだろうと貴方は笑うけれど。同じくらい馬鹿なあなたの隣には俺くらい馬鹿な方がお似合いじゃないか。 「俺を失望させるなよ、ナマエ。」 「Yes、Sir!!」 ゼロからの再出発は地獄です なんて俺達に似合いの旅立ちじゃあないか back |