中編:海賊♂ | ナノ


噛み砕いた砂の味(2)


嫌な時ほど予感というのは当たる物、というのは世の常である。苛々と機嫌の悪いクロコダイルの眉間に皺がどんどん追加されていく。

「ジョーウダンじゃなーいわよ〜う!!」

ああ、確かに冗談じゃない。隣の部屋から聞こえてくる大声に俺の機嫌は別の意味で急降下である。基本的に個性的な面子揃いだと言うだけあって、さっき覗いた時点でもかなりの濃い面子が勢揃いをしていた。 

「・・・俺は、出なくても良いの?」
「馬鹿言え。俺についてくるに決まってるだろう。」

なんでお前は俺の集めたエージェントと会うのを極端に嫌がるんだ、なんて分かり切ったことを。ただの嫉妬に決まっているだろう。あと基本的に俺は人付き合いが嫌いである。でもそれもクロコダイルに "必要な事" であるなら仕方ない。

「ナマエ、駄々こねるんじゃねぇぞ。」
「・・・解ってるよ。」

がたりと立ち上がって奥から2人で連れ立って席へと足を進める。こちらをじっとりと見つめる視線が不快だが、それ以上にかれに注目する奴らの目が不快だ。じろじろと不躾な目線が必要以上に俺達に刺さるのを感じる。これが消しても問題のない奴らだったら消してやりたいくらいに、俺はあまり彼等をよくは思っていない。舌打ちを小さくすれば、腰に笑いながら宥めるようにクロコダイルが手を添える。

「おい、Mr.infinity カリカリしてると禿げるぞ。」
「・・・大丈夫だ。」

ならば早速、とクロコダイルは作戦について話し出した。計画の当初からだいたい理解しているので簡略化された説明は俺にとっては不要。クロコダイルの質のいいテノールを耳で流しつつ、心を落ち着かせて移動する。一人一人に念入りに計画して書かれた司令書を各エージェントに手渡すためだ。面倒だ、なんて思いながら気怠げに配っていれば、Mr.2が、俺を呼び止める。

「・・・確かMr.infinity、だったかしらん?」

アンタ、一体何者?とMr.2が言えば、また視線がこちらに集まる。心なしかクロコダイルがにやついているのは何故だ。こちらはなにも面白くないと言うのに。

「私と同じくボスのパートナーよ。」

俺が何も話す気は無い、の姿勢で居ることに気づきオールサンデーが俺の代わりに返答する。同じく、か。 俺はただのエージェントでいるつもりは無いのだが。他に適切な答えも無いし、そのまま放っておく事にした。あちらさんは不服だったようだが、黙りを決め込めば目線は大人しく元の位置に戻ったようだった。

「作戦は各自、司令所に書いてある通りだ。決行は明朝7時。」

クロコダイルがにたり、と全員に向けて激励の意を放つと同時に待ったの声が上がる。
誰だ、野暮な事を今更言い出す輩は。声の主を見渡せば、机に座っている奴らも自分では無いという顔で入口に向けて視線を向けた。

「・・・Mr.3、どうやってこの『秘密の地下』へ?!」

オールサンデーが少し驚きつつ聞いているが、正直そんなことはどうだって良い。俺にとってMr.3は、この場に "不要" それだけで充分だ。

「待て、ナマエ!!」

ざっと走って、Mr.3の首を掴んだ所で制止の声。自慢のかぎ爪を首に押し当てたところだった故に、殺していたらクロコダイルに怒られていた所だ。ばっと手を離し、その場に崩れ落ちながらも報告をするMr.3に、俺はどこか違和感を感じていた。こんな声は知らない。

「電伝虫・・・? なんの話ですカネ?」

Mr.3の報告内容に怒りが納まらない、といった様子のクロコダイル。それもそのはず、この男が言うことが確かであるとするならシナリオは総崩れだ。

「成る程・・・アンラッキーズがあの島から戻らないのはそのせいか・・・。」

つまり、あの電話を取ったのはMr.3ではなく、敵だったということだ。知らなかったというか、知ろうとしなかった身内の情報が仇となってしまった。これはMr.3だけの失態ではない。俺の失態でもある。

「サー、電話の主がMr.3でない事に気づけなかった俺の失態だ。」
「Mr.infinity。そのクズをこちらに寄越せ。」

射殺すような視線は俺には向けられておらず、息をついてみた物の、どう足掻いても今更この男を消した所で、この失態は取り返せそうもない。大人しくクロコダイルに向かってMr.3を投げれば彼も苛ついていたのか、みるみる萎れていく男の身体。

「ガッカリさせてくれるぜ・・・、いざって時に使えない奴ほどくだらねぇモンはねぇ・・・!!」
「・・・・・・。」

俺に言っているわけでないとは知っていても、どうしても後悔がよぎる。あの時点で俺が向かえば、この計画は計画通り進んでいたかもしれないというのに。俯いて自分を責めていれば、つんざくような悲鳴と苛立ったクロコダイルの声にハッする。

「もうこれ以上のトラブルは御免だぜ・・・?」

耳が痛いとはこの事だ。この場にいる全員に向けられた言葉なのだろうが、その一言が胸に刺さる。

「了解!」

エージェント達が口々に了承して作戦に向かうのをクロコダイルの横で眺める。
羨ましい、俺は彼等が羨ましくて仕方ないんだ。

「・・・浮かない顔、してんじゃねぇ。理想郷はすぐ目の前だぞ。」
「・・・解ってる。」

彼の目的は俺の目的。ならば全力を尽くして俺は俺に出来ることを完遂するまでだ。
一度失敗しているだけに、これ以上の失態はいくらなんでも許されないし、たとえクロコダイルが許しても、俺が俺を許せない。


「指令を、サー。」


進み始めた砂時計


  back


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -