かぞくごっこ 「わーにー!」 勢いよくドアを開けて足元をぱたぱたと駆け回る幼子を見て、まだ咥えたばかりだった煙草を灰皿にすり潰した。おい、仕事中は入ってくるなと言ってあるのに、全く躾がなっちゃいない。 「・・・ライラ、はしゃぎすぎだ。」 「わに、あそんで!」 「・・・クロコダイル、だ。」 「わにぱぱ!!」 誰に似たんだか解らないような頭の軽い台詞にくらりとめまいを覚える。おれじゃないのは確かだが。・・・子供なんてこんなもんなのだろうか。あと俺は「わに」じゃなくてクロコダイルだ、と何回言ったらこの餓鬼は理解するのか。 「・・・あれは?」 一応こいつが俺をどう思ってるのか確認するべく、水槽の所まで子供を抱えてソファに腰掛ける。水槽の中が良く見える位置に持って行って、水槽の中のペットを指さす。 「バナナワニ!!」 「・・・解ってんじゃねーか。」 そこは「わに!」とか言えば只のバカで片付くものの、無駄にドヤ顔で正式名称で答えてきやがる。 「じゃあ、俺は?」 「わに!」 もしかして今の流れなら言うかもしれないと思って期待した俺が馬鹿だったようだ。こいつ意地でも言う気が無いのか、もう俺の名前を完全に「わに」だと思っているのだろうかのどちらかなのだろうか。どちらにしても苛つくことこの上ない。 「・・・じゃあナマエは?」 「んー・・・ナマエママ?」 さすがナマエが拾ってきただけある。というかナマエの名前はきちんと認識するのかお前。まぁ犬とかでも散歩だけする父親より餌とか色々世話をする母親を主として認識するということを聞いたことがある。そんなもんなのだろう・・・まぁナマエは俺の補佐しながらライラの世話もしてるからな。 「俺は・・・クロコダイル、わかるか?」 「くりょこだいりゅ、」 「言えてねぇぞ。」 「・・・わに、」 「おい。」 諦めんじゃねぇよ、と頬を引っ張ってみれば思った以上に柔らかかった。 「・・・・・・ッチ、」 「にゃに、すんの・・・!!」 むにむにと頬を無心で弄っていれば、コーヒーのいいにおいと共に扉が音もなく開く。部下ならノックをするはずなので、入ってきたのはナマエで間違いないだろう。 「・・・なにしてるの、サー。」 「いや、ちょっとな。」 「ライラ、虐めないで下さいよ。」 「虐めてねぇよ、」 頬から手を離し、トレーからコーヒーを受け取る。乗っている白っぽいコーヒーは多分、ライラのだろう。ライラに手渡してやれば、顔を近づけて顔をしかめる。どうやらこいつは猫舌であるらしい。 「・・・あ、サー。おめでとうございます?」 「あ・・・?」 「あ、って・・・今日、サーの誕生日ですが。」 いつもなら余るからホールはどうか、なんて迷いながらもナマエはライラがいるからとホールケーキをコックに作らせたらしい。道理で今日は厨房から甘いにおいがするはずだ。 「わーに! おたんじょーび、おめでとぅござーます!」 「・・・ああ、ありがとうな。」 「俺からのプレゼントは夕食の時に渡しますね。」 「・・・俺はベッドの中でも構わないが。」 茶菓子を机に並べる手を引き留めて、微笑めばナマエは耳だけほんのり赤くさせて、にこりと微笑んだ。 家族ごっこ back |