所有印 思えばこの男、クロコダイルは結構イベントを大切にする男だと思う。小洒落た部屋に落ちる照明の光、彼のお気に入りのワインの匂いがコルクを抜いた瞬間に薫る。目の前には部下が運んできた今晩のディナーが入っていた皿が綺麗な空になった状態で並ぶ。 乗っていたディナーはチキン等のどうみてもクリスマス使用だったのにも先程驚いたばかりだ。イベントで浮かれてる暇なんて無いなんて言いながら、しっかりクリスマスの準備が整えているのも抜け目がないというのだろうか。 「なぁ・・・サー、」 「なんだ、ナマエ?」 「メリークリスマス?」 問いかけるように言ってしまったが、平然と肯定の言葉が向かい側から返ってくる。その事にすこしながら戸惑ってしまった自分は、苦し紛れに手元のワインを引き寄せて飲み干した。それを上機嫌で見つめてくる視線に、アルコールも伴って頬が赤い気がする。 「・・・イベントで浮かれるなんて下らない、じゃなかったのかよ・・・」 「何時のことだ?」 忘れちまったなァ、なんて笑う彼は本当に質が悪い。これだったら、呼ばれる前に部屋に置いてきたあれを持ってきておけば良かった。一応クリスマスといえば、プレゼント。 ディナーを用意しているというのは計算外で、直前日に否定の言葉を頂いてからは、そういうイベントとかで浮かれてる自分を窘められると思って、あまり興味の無いフリをしていたのだが、なんという気の変わりようだろう。 「・・・なんでもない、」 「・・・気にいらねぇか?」 「えっ、そんなんじゃねぇけど。 ただ、意外だなと思って。」 その答えにクロコダイルは少し眉間に皺を寄せた。しまった言葉を間違えた、と思ってももう零れた言葉は取り返しが着かない。 「・・・俺はクリスマスなんて祝うのは初めてだが、可笑しいか?」 「可笑しくは無いけど、いきなりだな、と思っただけで・・・」 「・・・お前が、」 「・・・・・・俺が?」 「ナマエがやりてェ、って言ったんだろうが。」 じゃなきゃ、こんな急ごしらえで色々用意するわけねぇだろうが。クロコダイルにそう言われてしまえば、街に出かけるたびに少し色々見つめていた気もする。向こうからしてみれば、俺に付き合っていたのに文句言われた、という感じだろう。なんか本当に愛されてるなぁ、と思ったり。 「・・・サー、」 「あ"、 まだなんか有るのか?」 「ありがと。 すっごい嬉しい!」 笑って言えば、嫌に赤いサーの顔が緩んだ気がした。正直いえば、自分も世間一般で言うクリスマスは過ごしたことがない。というか今回に至るまで、興味がなかったというのもある。でも、今年は違う。 クリスマスを一緒に過ごしたい相手がいたから。 「サー、あのさ、」 「プレゼントでも欲しいのか?」 ほら、と投げ渡された四角い包み。本当に抜け目がないよ、クロコダイル。 「ありがとう。 ちょっと待ってて、俺もあるから!」 相手の返事も聴かず飛び出して戻ってくれば、にやついた顔のクロコダイルと扉をあけた途端に対面した。椅子に座って待っていれば良いのに! 「それで、なにをくれるんだ?」 「・・・開けてからの秘密!」 「じゃあ今すぐ開けても良いか?」 結局お互い貰ったものを手元で綺麗に梱包を剥がしていけば、中から出てきたものはプラチナとルビーのシンプルなピアス。このデザインに見覚えがある。 「・・・っ?!」 「・・・お前、それが欲しいんじゃ無かったのか?」 「いや・・・その・・・」 不審な顔をしていたクロコダイルだったが、俺から貰った箱を開けて納得したようだ。 「まぁ、揃いも悪くねぇか・・・あぁ、お前が俺と一緒じゃ嫌か?」 「嫌じゃない。」 「なら、嵌めてやるよ。 こっち向け。」 大人しく耳元を差し出せば、ピアス穴に通るプラチナの冷たい感覚と共に、耳穴に通る様なテノール。 「メリークリスマス。ナマエ」 耳元を彩る所有印 back |