企画 | ナノ

伝わらない愛情表現


実に長い間、だった。あの人が元帥の座を争って赤犬と戦って、敗れて、それから2年。2年も経って部下だった奴らもそれぞれバラバラになった海軍本部と同じように散り散りに他の中将、少将などの部下に付いたり、頂上戦争時にあげた功績をもとに地方で役職についたりしたものもいた。俺はクザン大将の腹心と呼ばれていたから、赤犬も俺相手ではやり辛いのだろう。上から打診されたのは、移動した海軍本部から少し離れた場所の統括だったが俺は首を縦には振らず放置しておいた。嫌がらせのように舞い込む繁忙に奔走しながらも走り回っていた先の温泉街にて懐かしい面影を見つけた。

「・・・たッ、」

呼ぼうと思ったのだが、なんと声をかけて良いのか酷く頭が混乱して言葉にならない。そんな俺の気も知らず、高い背中はどんどん人ごみの中を遠ざかっていく。伸ばした手すら届かず、住宅の角を抜けた先でその姿を見失う。

「ばっか、野郎・・・!!!」

力の抜ける足を腕でぐっと握り、走る。見失ったところでなんだ、一瞬で黄猿大将のように走るわけでもないのだし、まだこの島から出ていないのなら俺の脚で走り回ればまた捕まえるチャンスはあるはずだ。会ったとして、なんと言われるかなんてわからないし怖いけど、それでもあの人は俺に別れの一言くらいくれてもよかったはずだし、俺は黙って消えたあの人に恨み言のひとつくらい言う権利はあるはずだ。捜索を依頼されている麦わらの一味だとかネオ海軍だとかなんて知ったことか。脱走していたクザン大将を捕まえるスキルなら俺以上の男は居るはずもない。頭にあの人が行きそうな場所をひたすら走りながら一般向けの観光マップに目を走らせていれば、丁度温泉街の店と店の間に見慣れた自転車を見つけた。

番台に座る人に写真で確認を取り、服を脱ぎ散らかして籠につっこみながら湯煙に曇る戸を開いた。

「・・・・・・あれ、」

湯気が開きっぱなしの扉から逃げて、お互いの視界がクリアになれば湯船に浸かっている大将がこちらを見て目を見開いた。

「なんで、こんな所にいるのシオン。」
「・・・貴方を探してたんですよ、よくできた部下でしょう?」
「・・・今は俺は一般人なんだけど。」
「それでも、俺にとっては唯一の上司です。」


それこそ伝わらない愛でしょう?


「あの・・・なんだ・・・その、すまん。」

勝手に俺だけ突っ走ってこのザマなんだ・・・と傷に手を這わせる男を睨んでみたが、俺が謝ってほしいのはそこじゃないんだ。

「かっこ悪ィ・・・よなぁ〜。」
「だから、何ですか。腕の一本や二本。貴方の事だから苦労はしても不自由はしてないんでしょう。」
「・・・まぁ、そうだけどさ。」
「俺が怒ってるのは、俺を置いていったことなんですが。」
「そりゃ、謝るわ。ごめん。」

その言い方が上司だったときとは違って、突き放したような声色だったのが己にはどうも堪えたようで視界がじわりと歪んで見えた。

「・・・付いていく、なんて言わせてもくれないんですね。」
「やめとけ、その方がお前のためだ。」
「・・・なら、やめておきます。」

その方がどうせ、貴方の為になるのでしょうから。

そう自分の中でその場でできる笑顔を顔に浮かべて言えば、大将は少し困ったような顔で、泣くんじゃないよシオンなんて言いながら頭の上に乗せていたタオルを顔に被せて来たので、有り難くタオルに顔を押し付けて声を殺して泣いた。

title by たとえば僕が

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