甘やかされた温もり お昼寝を仲間としていたのだが、気づいたら寝ていた氷が溶けだし割れて、それが運悪く流れの早い海流に乗っていたらしく、起きたら全く故郷の名残のない大いなる海の真ん中だった。 帰り方なんて、解るはずもない。だってまだ自分は今年卵から孵ったばかりのひよっこで、海に潜れるようになったのも最近なのだから。 小さな瞳に涙を浮かべて立っていれば、足元から小さく割れる音。多分この海が暖かいから乗ってきた氷塊もそろそろ限界なのだろう。これが割れたらもうどんなに疲れても泳ぐしかない。冷たい場所を目指して泳いでいたら帰れるだろうか。 ばしゃばしゃとまだ慣れない泳ぎは拙く、思った以上に体力を奪う。近くの餌場で魚をとっていた際には、疲れたらすぐに岩場や氷の上で休憩できたのだが、あいにくここにはそんな物もない。 ばしゃばしゃばしゃ。こんな温い海に入ったのは初めてだ。冷たい故郷の海が酷く懐かしい。 帰りたい、帰りたいなんて思って、どこに向かうかも解らずただ足を動かして泳いでいれば、海の上に一筋、氷の道が出来ていた。 もしかしたら帰れるかもしれない。疲れた足を氷の上に置いて、少し休んでから腹で氷の上を滑る。思ったより平らな氷をひたすらに滑って行くと、目の前に止まっていたのは丸い足を持った細い体をした奴と、高くてもじゃもじゃの毛をした人間だった。 「キュ、」 警戒しながらも近づいてみれば、ひやりと男から懐かしい冷気。駆け寄ってぴたりと足に張り付いてみれば、寝ていたのだろう男の目が開いてこちらを見た。 「こんな暑いとこにペンギン?」 じっとこちらを見た男が何か言っていたが、言語を同じくしない生物同士では解らないだろう。他の生物の体温に触れてじわり、と涙腺が緩んだ。 「あらら、迷子かな。」 心配そうにこちらを見た男に泣き顔を見せたく無くて軽く俯いたのを何か思ったのだろう男は少し考えてから己に向かって笑いながら「キャメル」と呼んだ。何度も呼ばれていく中で、言葉は解らないものの、それが己を指すらしいと言うことだけが理解できた。 「俺といっしょにくる?」 差し出された冷たい手につられて自分の腕を上に上げれば、よろしくねと今度は暖かい手が額を撫でた。 甘やかされた温もり 餌を貰って一休みしてそれからのこと。帰る宛てもないし、これからどうしようかと考えあぐねていれば、ぱちりと男と目があった。 「・・・もう大丈夫?」 こてりと首を傾げれば、男は満足そうに細い奴にまたがり、男はこちらを見て手招きをした。どうやら己をどこかに連れていってくれるらしい。それが故郷であっても、そうでないとしても男がずっと近くにいてくれるなら居心地は良いし、それもいいかもと思いながら歩を進めることにした。 title by たとえば僕が back |