企画 | ナノ

貴方を見送りたくないの


見える人がいうには、俺の後ろには顔の整った男が心配そうに佇んでいるらしい。ぼんやりとその言葉を租借して砕けば、如何せん思い当たる男はシオン以外思いつかなかった。

「どんな人、って聞き忘れたな。」

見たことも無い親や、俺が殺した親友、死んで行った部下などあげていけばキリがないが、心配しながら見守っているというフレーズを伴う男にはシオン以外に思いつかなかったとは相当だ。最後すら見届けられなかったというのに、まだシオンの記憶は俺の中で鮮明なままなのだから。



ふらり、と寄ったとある島で、川になにか明かりをつけた船を海に流す行事が行われていた。物珍しさに手を伸ばして浮かんでいたそれを引き上げれば、横に居たおばさんから叱責をくらった。

「成る程、ねぇ」

聞いたところによれば、この島特有の弔いなのだそうだ。手の上に載せていた船をまた水上に戻せば、また船は水流に従って下降を始めた。いくつもの光を伴って川を下る船はきらきらと輝きながら離れていく。

俺は幽霊だとか、そんなのは信じて無いけどさ。それでもシオンなら俺は信じるよ。だっていつもなんだかんだで俺の後ろばっかりついてきた男が、死んだくらいでそれを止めるつもりは無いだろうし。俺の知ってるシオンなら例え俺が見送るから逝きなよ、なんて言ったところで無駄だろうし。

「船、ひとつ分けてあげようか?」
「いや、いいや。」

俺の顔を見て、気を使ってくれたのだろうおばさんに丁重にお断りを入れつつ、川辺の砂をお尻から掃って立ち上がる。だってさ、シオンはそれには乗らないだろうし。

本当に良いのか、と念押しをしてくるおばさんに笑いながら再度断りを入れて、高台へと足を進める。高いところから見たら、より綺麗だろうから。

「ねぇ、シオン? 綺麗だねぇ・・・」

高台から見ると海に流れ出した光りがいくつも連なってまるで蛍のようだ。

「あのね、俺さ、」

あんな風にシオンを穏やかに送りだせないよ、ごめんね。なんて見えない背後に向かって話し掛ければ、そんな俺を笑うように突風が吹いて、木々を揺らした。

貴方を見送りたくないの

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