いわくつきのキスシーン 「おいおい、マジかよ・・・」 サボっていたというか、やればできるから・・・と放っておいた書類を缶詰して、やっと終わらせて少し暗くなった海軍本部の廊下を歩いていた時の事だ。同僚であり恋人の執務室の明かりがついていたので、一緒に帰ろうかと扉をノックしようと腕を寄せたところで、すでに開いていた扉が少しだけ開いて中の様子がちらりと視界にはいった瞬間に、出た言葉はそんなありきたりな台詞しか出てこなかったのだ。 「・・・えっ、これ、どういう事なの。」 確かにシオンは昔から男にも女にもひたすら手を出してきていたのだけれど、俺と付き合うようになって全部そういうを清算したのだろうと思っていた。勝手に思っていただけだと言われればまさにその通りなのだが。 「しかもよりによって、相手がスモーカーかよ・・・」 確かに少し体躯がしっかりして、そこそこに堅物な性格で・・・とスモーカーの事を上げていけばいくほどに、シオンの好みぴったりで少しだけ落ち込んだ。もしかすれば恋人だと思っていたのは俺だけで、俺が知らないところでいろんな奴らに手を出していたんだとすれば、それはとても悲しい。もう見なかったことにして、今日は帰ろうと扉に背を向けた時に中でガタリと足音がする。 「・・・クザン、一緒に帰らないのか?」 シオンが部屋の内側から発した言葉にスモーカーがその言葉にこちらに向かって走ってきて、扉を完全に開いて顔を青くさせている。知ってる、知ってる。スモーカーは悪くないんだってことくらい。 「・・・シオン、その能力使うのもいい加減にしないと俺も怒るよ。」 「・・・どう、怒るの?」 フェロモンを操ることに長けているというかそういう洗脳系の類の実を食べたらしいシオンの色香にかかれば海軍の名のある将校でも骨抜きだと知っている。ストライクゾーンが広いシオンからしてみれば海軍本部の奴等なんて恰好の獲物だろう。 「俺だって、浮気されて良い顔はできないんだけど。」 「・・・嫉妬、した?」 「するに決まってるじゃないの。俺の事も遊びだってんならそれなりの態度こっちもとるけどさぁ。」 本気でない遊びだ、と笑顔でシオンがいうのなら、俺はそのまま別れるつもりなのは伏せておく。だってなんだかそれを口にするのは俺が酷く馬鹿みたいだから、精いっぱいの強がりだ。 「・・・ふはっ、うん。悪くない。」 「何が。」 「いや、クザン可愛いなぁと思って。」 不意にくらりと来たのは、きっとシオンのフェロモンで間違いないだろう。誤魔化されないぞ、とふわふわし始めた脳を叱咤しつつ強い瞳で睨めば、余計にシオンは歓喜するように口元を釣り上げた。 「・・・あー・・・俺、本当に愛しちゃってるかも。」 「俺は、前から愛してたよ。」 「うん、知ってる。」 「弁解なら一応、聞いてあげるけど・・・どーする?」 俺がそう言えば、少しも考える素振りなんか見せずにシオンは耳元で、そんなことよりベッド行こうなんて馬鹿な事ばかり云うのだ。こんなクズみたいな野郎のどこがいいのか俺にも今更ながらよく解らないのだが愛してしまっているのだから仕方ない。 「・・・次やったら、不能にしてやる・・・」 「というか、俺は浮気はしてないっつの。」 「キスしてただろ。さっき、スモーカーと。」 「キスは浮気には入りませーん。」 ちょっとした味見じゃん、なんて頭が痛くなるようなことを言う男が少しだけ目を鋭くして笑う。 「・・・じゃないと先週の、クザンのアレも浮気とみなしちゃうけど?」 先週、と言われて首をひねっていれば背中を救われる感触。毎度ながら長身でそれなりに重い俺を抱えていくのだからすごいなぁなんて思考を挟みつつ考えていたのだが、なにも思いつかない。 「先週って、なんかあったっけか。」 「・・・飲み屋のねーちゃん侍らせて、キスマークだらけで帰ってきたの忘れたのか。」 「あー・・・あんなん接待だろ。」 「・・・だろ?」 つまり、それは、あれなのだろうか。 「・・・えーと、シオンもしかして飲み屋のねーちゃんに嫉妬した・・・とか・・・」 「ん、どうだろうな。」 「えっ、きちんと聞かせてってば!」 ぼふん、と軽くベッドに落とされながらシオンに迫れば、はぐらかすようにいつもの甘い微笑みとキスが降ってきた。 いわくつきのキスシーン title by たとえば僕が back |