傷を隠すように抱きしめて 先日、昇進と同時に己の正義を下げた。燃え上がる正義、なんて俺は大層なものを掲げられるほどできた人間ではないことに気が付いたからだ。それと同時に己を貫くことの難しさも経験した。 「・・・あー・・・その、なんだ。」 昇進に伴う部屋の移動に付き合わせたシオンは、やっと片付いた俺の部屋で俺が淹れた「お疲れ様コーヒー」をゆっくり啜っている。歯切れが悪い言葉の出だしを察するにどうやらシオンは俺にどうやって慰めたらいいのか考えあぐねているらしい。 「クザンは、考えすぎなんだと思うんだ。」 もうちょっと考えずに行動してみたら、と目を合わせずに言うシオンに苦笑しながら目を伏せる。 「まぁ、迷うなとは言わないけど。もうちょっと気を抜きなよ。」 前に掲げていた正義がかかれた額縁を撫でる。中身の文字がかかれていた黄色みがかかった紙は今は丸めてごみ箱に入っていた。 「出来れば、苦労はしてないでしょ。」 「そりゃあ、そうだけど。」 ぶつ切りになったやり取りして、続かなくなった話を途中で諦めたように俺が黙りこめば、相手は意を決したように強い口調で口を開いた。 「・・・お前のしたことは正しいよ。海軍として。それが重いっていうんなら辞めちまえ。」 ばふり、と投げつけられた箱には「傷心祝い」なんて皮肉な言葉が綴られていて苦笑する。 「ご昇進、おめでとうございます。」 「ありがと。」 軽いそれを受け取って開ければ、そこには青色のアイマスク。目を休めろとでも言いたいのだろうか。 「いつまでも暗い顔してんじゃねぇよ。思い切り泣いて、笑え。サウロはそんな顔のお前見て、どう思うかくらい分かってるんだろ。」 言われながらアイマスクを眺めていれば、手の中のアイマスクを引ったくられて顔に付けられた。これじゃあ何も見えやしない。 「それしてれば、泣いてたってわからねぇし。」 辛いことも見なくていいだろ、なんて震える声がした。相変わらずアイマスクで視界が遮られているから声の主の表情は読み取れないが。 「大将になれば、前よりもっと辛い事だってあるだろうから、俺から餞別だ。」 「成る程・・・」 「そんで、」 アイマスクの上から強引に乗せられた固い手の感触。 「何?」 「これは俺からの元気付け。」 ちゅ、と寄せられた柔らかい感触にアイマスクをずらそうとすれば、その腕ごと上から抱きしめられた。 「ちょっと、」 「黙ってろ、馬鹿クザン」 ぎゅうぎゅうと照れ隠しのように締め付けられた両腕は少し痛かったが、なにより暖かいその体温に救われているなぁと笑いながらアイマスクの中で目を閉じた。 傷を隠すように抱きしめて title by たとえば僕が back |