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欠片すら掴めない


始めは偶然か、もしくは前回が間違っていたのではないか、と思っていた。なぜなら俺が前回とは異なった平和な世界に記憶を持ったまま生まれ落ちた時に、近所に住んでいたのは前世で好意を寄せていたアリスで、アリスは都合が良いことに、俺のように前世での記憶を持っていなかった。

「俺のこと、覚えているか。」

小学生ながらに中学生の、3つも年上のアリスを引き止めたとき、アリスは笑いながら、近所のローくんでしょう?と朗らかに笑っていて、少しだけ、ほんの少しだけ傷ついたが、それよりも俺はアリスがドフラミンゴも覚えていないということに安心していた。

回りに酷く注意を重ねながら、回せる手をすべて回し、法的に拘束できる時まで待つつもりだったのだが、その余裕が命取りだったと言うことに大学の下見に行った際に気がついてしまった。

「あっ、ローはここ志望だっけ?」
「ああ、」

アリスが行ってる大学を目指したのだから当たり前だろう。そう思いつつも声には出さない。ここの大学のレベルは中の中。そこそこ頭の出来が前世と変わらず良かった俺の成績では、この大学に入るのは親や教師共からはかなり反対をされているが俺の意思は固いのだから特にそこについては問題ではない。というか今はそれどころじゃない。キャンパスに足を踏み入れるなり、早々にアリスを見かけて上向きだった気分がある男の顔を見てしまったがために氷河期同前まで下がってしまっているのだ。


アリスに遠くからでもわかるように大きく手を振りながらやってくる派手な男。俺の前世からの記憶に間違いがないのであれば、あれは。

「ドフラミンゴ・・・」
「あれ、ローはドフラミンゴ先輩と知り合い?」
「いや、俺はこんな餓鬼しらねぇよ。」
「・・・!」

俺がアリスに返答を返す前に、横からドフラミンゴが笑いながら声を挟む。にたりと笑う癖は同じなのだが、平和な世で記憶もなく育ったのだろうそれは以前より幾分か和らいで見えた。

「あと、俺達には先輩をつけろ。餓鬼。」
「・・・っ、」

後ろからにゅっと出てきた腕が、己の肩を強く掴む。振り返ると髪型は変わっているものの、前世で俺が殺したはずの男が立っていた。

「ヴェルゴ!!」
「ヴェルゴさん、だ。」


軽くデコピンをしてアリスに俺について尋ねている2人をみる限り、こいつら全員記憶は無いらしい。前回の二の舞にならぬように慎重に・・・、駄目だな。ドフラミンゴがいるなら無理矢理くらいでも浚っていかないと遅いだろうし。

「アリス、帰りに家寄っていいか?」
「ん?良いけど?」

進路ならまず親に相談したほうがいいよ、なんて言うアリスが警戒しないようにとりあえず頷いておく。

「おい今日の飲み会どーするんだよ、アリス。」
「あっ、ロー・・・」
「俺は今日じゃなけりゃ困る。」

暗にドフラミンゴとなんて飲みに行かせてたまるかと言う嫉妬である。子供みたいだ、とは思ったがその通りではあるのだし、思い切り特権は使わせて貰おうじゃないか。

「ロー、わがまま言わないの。何時でも会えるんだから明日にしましょ。」
「・・・今日だ。」
「今日はドフラミンゴ先輩の家に遊びに行くって前から約束してるの。」
「アリスはドフラミンゴと付き合ってるのか? 付き合ってねぇだろ。」

ならいいじゃないか、と言いかけた所でアリスが少し動揺の素振りを見せたのに、俺は目を見開いて固まることしか出来なかった。まさか、そんな、嘘だろう。

「・・・あのね、うん・・・付き合ってはないんだけど・・・」

そう言って少しだけ困ったように眉を寄せながら小声で俺に言う、彼女の唇の動きが昔の彼女と重なって見えて吐き気がした。



欠片すら掴めない


真っ白な所から始めたつもりだったのに、やはり白は赤にしか染まれないのか・・・と、己を呼ぶ声に背を向けて走りながらそう思った。



 *  *  *

『トワレの小瓶もしくは lost and foundシリーズでローサイドの話』(匿名様)
ロー視点だとすごい切ない話になるというかトワレはもう本当オチが無いんです・・・下種なミンゴさんに翻弄される女のお話なので。なので続編ではなく時代背景をちょっとさかのぼってみました^ω^)トワレのちょっと前のお話になります。トワレシリーズは本当ぎゅっと切なくなるというか矢印が複雑なので好きと言って頂けて本当ありがたかったです/// 本当リクエストありがとうございました・・・!また機会がありましたら是非ご参加ください。

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