企画 | ナノ

ラブコールが終わらない


「・・・、」

日常に馴染んでしまっているというのはこういう事だろうか、ともくもくと読書をする手を止めずに頭の中を回転させる。ソファに腰掛けながら読書をする傍らには、何をするわけでもなく何時もシオンが控えている。

「掃除は、」
「終わりました。」
「・・・そうか、」

やることさえきちんとやっていれば、俺がそれ以上を気にする必要性はあるまい。視線だけちらりとシオンにむけてから再度本に目を戻す。それからはひとしきり前の島で買った本に思考を滑らせていく。本は好きだ、特に中身のあるものがいい。知識とは持っていて損であることは無いのだから。分厚い本のキリのいいところまで読み進めてしおりを挟んで目を休ませようと部屋の周りを見渡せば、廻りはもうすでに日が傾いてきている。こりゃあ昼飯を食べ逃したな、と自覚した瞬間に減る腹を掌でなだめるように撫でる。いつのまにか部屋にいたはずのシオンもいなかった。それほど熱中していたのだと思うと少しだけ苦笑を隠せない。またやっちまった。戦闘になったら大きい音がするから平気だとは思うのだが、今後ないとも言い切れないのが悩ましいものだ。

「・・・晩飯は、まだ早いしな。」

晩飯の時間にはまだ早いから今言っても軽食しか出ないだろうし、さてどうしようか。もう一度本を読み始めてもいいのだが、晩飯も食い逸れたら目も当てられない。

「・・・昼飯、と言えばシオンの野郎、置いていったな・・・」

イライラと本を机に置いてソファに再度体を勢いよく預けて休もうとすると耳にギィと
部屋の開く音。開いたドアの向こうには、先程探したシオンがコーヒーのいい匂いをさせながら部屋に戻ってきていた。

「・・・もう、読書終わってたんですね。」
「昼飯の時間くらい教えろ。」
「熱中してらしたので・・・」

それに3回呼びましたよ、と言われてはぐぅの音も出ない。(腹からは若干音はなりそうな感じではあるが)

「それで、ひとりだけ優雅にコーヒーか。」
「いや、まだ飲んでないです。」

全く言いたい意味がよくわからないが、こいつが俺の機嫌なんか知らずにへらへら笑ってるのなんていつものことであるので、そのあたりは気にするのはやめるに限る。

「・・・勿論、俺のはあるんだろうな?」
「そりゃもう、差し入れをしようと思って砂糖菓子もコックに作ってもらっちゃいました。」
「・・・で、そのコーヒーと砂糖菓子は?」
「あ、」

ドアが両手がふさがって開かないから、と扉の向こうに一旦置いてから部屋に入ってきたらしいシオンが慌ててコーヒーと菓子の乗ったトレーを持って部屋に入ってくる。

「・・・わ、忘れてた・・・!!」
「本当にお前は、阿呆だな。」
「船長がいけないんですよ! まだ本読んでると思ったら俺の事待っててくれたみたいだし。」
「お前なんか待ってねぇ。」
「・・・良いんですよ、俺が勝手にそう思ってただけなんですから!」

夢くらい見せてくれたっていいじゃないですか・・・と泣き言を垂れるシオンからロールケーキとコーヒーカップを奪って口に運ぶ。うん、今日のは割と悪くない味だ。

「・・・悪くないな。」
「船長も食べれるように、甘さ控えめにしてしてもらいました。」
「おい、それは馬鹿にしてるのか。」
「いえ、可愛いなと思ってるだけです。」
「・・・馬鹿にしてるんじゃねぇか。」

少し笑ったシオンに少しクリームのついた手で顔を抓ってやれば、ひどく緩んだ顔で喜んだので少し引いた。

「・・・ちょっとは嫌がれ。興ざめだ。」
「すみません、船長が口にクリームなんてつけながら可愛い悪戯してくるので・・・つい。」
「それは早く言え。」

ごしごしと袖口で口元を拭えば、残念そうな声が上がる。本当にこいつの頭は湧いてると思う。もしくは一本どころじゃなく螺子が吹っ飛んでるといったところか。ユースタス屋から何本か螺子くらいもらってこれば良いと思う、切実に。

「・・・俺の分も食べます?」
「晩飯が入らなくなるから、いい。」
「・・・ぶふっ、」
「何笑ってんだ、テメェ・・・!!!」
「真面目・・・船長、真面目すぎ・・・かわ・・・!!」
「眼球取り換えるか・・・?」


ラブコールが終わらない



『・・・また船長が怒ってる、ペンギン止めなくていいの?』
『ベポ、ほっとけ。』



 *  *  *

『ローを好きすぎる船員♂とロー』(ハートLOVE!様)

恋は盲目っぽい船員♂と至って割と生真面目な俺様ローさんになりました。はじめすごい気持ち悪いストーカー主人公も考えたんですが、すごい見返して気持ち悪いことになっていたのでリテイク。基本的に日常からハート船がこのくらいのテンションでみんなやってたら可愛いと思います/// リクエストありがとうございました!

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