金の斧は要りません 職場までの道の途中、ばったりと倒れこむ人を咄嗟に抱き留める。抱いた肩が熱をもっているようで酷く熱い。 「大丈夫ですか、」 聞けば、息をぜえぜえ言わせながら真っ赤な顔で「問題ない」と口にしたが、そんな訳は無いだろう。放っておいてもいいのだが、流石にこの状態で見なかったことに出来るほど、鬼じゃない。 「あー、」 じっと抱き留めた男の姿を上から下まで見て、この人物が鷹の目であることに遅れて気がついた。視界に大きな刀が映ったためだ。まさかこんな平和な町に、有名な海賊がくるなんて夢にも思っておらず、俺の動揺はピークに達していた。 本部まで連絡を入れておいたほうがいいのだろうか。でも本部の番号知らないんだった。職場までいけば、流石に誰か知っているだろうが、この人を背負って行けるかは謎だ。 「・・・みず、」 「みず?水か?」 腕の中からのくぐもった声にはっと意識を呼び戻される。ここからなら俺の家のほうが近いだろう。 「ちょっとだけ辛抱してくれよ、」 抱き留めた体を姫抱きの形で抱えようとしたのだが、がちゃりと背に背負っている刀が邪魔をする。仕方なく鷹の目の背から刀を下ろし、己の背に背負い直してから、ミホークを横抱きにして家まで走った。 愛刀を背から下ろす際に、ギロリと睨まれたのには震えたのだが、今はその強い目は閉じきっていて、瞼は腫れぼったく紅く染まっていた。やばいなぁとはおもいつつも家に帰って、とりあえず鷹の目をベッドに押し込んで、病院の番号をダイヤルすれば、電伝虫を持つ腕を上から押さえ付ける手の平の感触。 「・・・寝ていれば、直る。」 「医者くらいかかった方が良い。」 「医者は好かん。」 猛禽類を彷彿とさせる鋭い瞳で睨んだ鷹の目が、いつもの癖なのだろう背に手を回しているのが見えた。 「あ、刀なら向こうにかけてあるから。」 「・・・そうか。」 背に回した手を、何気ないそぶりで戻しながら鷹の目はまた「水を、」と呟いたので用意してあった水をとん、と目の前に置いてやって気付いた。 「ちょっと待ってろ。」 ストロー持ってきてやろうとキッチンでストローを探しているとすぐに鷹の目がいたベッド付近から高い、モノが割れる音がした。 「待って、って言ったろ。」 やっと見つけたストロー片手に、水に濡れたベッドと鷹の目を見遣る。力の出ない手でコップから水をのもうとした結果だろう。目を離した俺も悪いのだが。 「・・・すまなかった。」 「別に、」 濡れた個所をタオルで拭いてやり、市販の常備薬をとりあえず口に含ませてやりつつストローを口に差し込む。なんだかちょっとこれ楽しいかもしれない。ニコニコしながら水と薬だけ飲ませたところで、部屋の置時計が低い音を奏でた。もう9時か・・・・9時? 「やべぇ、大佐に怒られる!!」 「・・・・・・。」 ばたばたと準備しつつ、横目でやっと布団で眠りにつきつつある鷹の目を見やる。このまま職場に行っても問題ないだろうか。家の中にそう取られるものは無いだろうし、天下の七武海様だ、そんな民間の一海兵の家にお気に召すものなどないだろう。 「・・・まぁいっか。」 とりあえずベッドの近くに水と、リンゴ、あととりあえず昼に食べようと思っていたサンドイッチもお供えしておく。食べて元気になったら勝手に出ていくだろうし、と思ってドアの鍵もあけておく。 「・・・じゃあ行ってきます・・・」 * * * * * * * * 職場に行ったら上司の大佐にこっぴどく怒られて、しまいにはそんな嘘つくなとまで詰られたので、とりあえず謝ってから机に着いたのだが・・・俺、七武海の回復力舐めてた。夕刻ごろ、今日も定時では帰れそうにないなぁと同僚の海兵たちと話し込みながら作業をしていたときに、上司が真青な顔で俺に怒鳴り込んできた。 「シオン!! おまえ・・・!何したんだ!!」 「えっ、俺なにかやりましたか?」 「七武海が駐屯所の真ん中で探してるの、シオンだろう!早く行け!!」 上官の指示通りに駐屯所の真ん中にある訓練場の真ん中でぎろりとこちらを睨みつける男は、朝方俺が介抱した鷹の目のミホークに違いなかった。それにしても、鷹の目治るの早すぎやしないか・・・。 「・・・・・・主か、」 「まだ寝てなくて平気ですか?」 「・・・敬語はよせ、面倒だ。」 「はぁ、まぁ元気ならいいけどさ。」 「・・・主には世話になった。なにか欲しいものがあるなら言え。」 「・・・いや、特に。」 とりあえず七武海とはいえ、海賊からものを貰ったら良く無さそうだし。「ご遠慮します。」とだけ短く伝えれば、男は少し考え込んで「なら、なにかしてほしい事はあるか?」と続けた。病み上がりの人間にそこまでしてしてもらう事もないので、「特に無いかな、」と答えてみれば、鷹の目は目を一瞬見開いて笑った。 「・・・欲の無い奴め。」 「ドーモ。」 褒められているわけではないのだが、返答にも困ったのでとりあえず笑いながら頭だけ下げておく。というか俺はこの状況をどうしたらいいのだろうか。 「・・・ならば、主の名は?」 「シオン二等兵であります、七武海ジュラキール・ミホーク殿!」 「・・・・・・シオンか、それならば俺はお前に借りを作ったことになる。」 「え、別に・・・そこまでの事では・・・」 「お前に借りを返すまで、俺はお前の所に留まることにする。」 「えっ、」 「しばらく、世話になる。シオン。」 「えっ?」 落としたのは普通の斧だったはず * * * 『海軍♂主と鷹』(o-sami-o様) お任せとのことだったので、ざっくり趣味に走っております・・・!!巻き込まれ系の主人公が書きやすくて仕方ない() いつもコメントやらリクエストやら本当ありがとうございます/// 本当に毎回楽しく読ませていただいております。今後ともよろしくお願いします^^ back |