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魔術師と心配性の場合


「・・・そうか、」

いつまでも起きてこない船長を呼びに船長室まで行けば、ベッドにいつものようにタロットカードを並べてめくっている金髪が目に入る。

「せんちょ・・・?!」

黙々とカードをめくる手は止まらず、こちらに気が付いていないのか気にしていないのか定かではないが金色の髪の間から揺れるたびに見える顔がいつもの船長の顔ではなかったことに驚愕を受けて一瞬臨戦態勢をとってしまった。じっとただ自分が見つめ続けていれば、最後のカードをめくった少年が船長のいつもの台詞「今日も、俺は死なない」を呟いてこちらにやっと金の目を向けた。光る金色はじっと心境を見通されているようで居心地が悪くなって目を反らせば、若い声が俺の名前を呼んだ。

「・・・シオンか、」

俺の視線が逸れたのを見て、少年は何事もなかったようにタロットカードをベッドにばらまいた。船長ならここでさらにカードをめくり続け、「お前も、今日は死なない」とかいうのだろう。船長らしき少年はまたカードをめくり始め、二枚目のカードで唇を開いた。

「月の正位置・・・不安。隠者の正位置・・・疑惑、俺が何者か不安なのか?」
「船・・・長・・・?」
「・・・ああ、多少縮んでしまったようだが、問題ない。」

服が無かったので見つけるために時間を要したから、食事を採るのが遅れた・・・なんていつもなんらかの理由で遅くなる船長だからそこは問題ではないのだが。縮んでいても問題ない、なんて明らかに俺から見ても問題は大有りなのだが。

「原因はわかってるんですか?」
「ああ、占いではジュエリー・ボニーの仕業らしいという事も解っている。」
「・・・大事じゃないですか、なんでもっと早く言ってくれなかったんですか。」
「今日中に解決する確率、82%・・・」
「・・・つまり、占いでは今日中になんらかの形で元に戻れるって事ですね。」

こくりと頷く顔も、幼さと服装合わせてどこかのビスクドールのようだ。髪の長さまでは変更が効かなかったようで前の身長に合わせて長くのばされていた髪が、船長がベッドから降りて数歩あるいてもまだ髪の束がベッドに残っていた。それにため息をついてベッドに座るように船長に提案する。

「・・・何故だ。」
「床で髪が汚れます。」
「俺は気にしない。」
「それでも、です。とりあえず俺は気にします。」
「・・・解った。」

すとん、とベッドの端に腰を下ろしカードを手に取った船長の邪魔にならぬように髪をまとめて持っていた紐でざっくりまとめる。それでも長さがどうしても長いので、3つに分けて三つ編みにしていく。それを後ろに円を描くようにしてまとめ上げてしまえば、綺麗にまとめる事ができた。

「・・・できましたよ。」
「頭が重い。」
「今日だけ我慢してください。」

髪を結い上げた船長は自分でやっておいてなんだが、なかなかの仕上がり具合だ。手先がもともと器用だったのからそれ程に苦戦もしなかった。今度から面倒くさそうに絡んでいる髪を解く作業も俺が代わりにやってもいいかもしれない。船長は結構短気だし。

「女にも、やってやるのか?」
「え、」
「・・・他の奴にも、こうやって髪を結ったりするのか?」
「いえ、特には。」
「・・・それにしては手馴れているな。」

器用なんで、と笑って船長をベッドから立たせる。船長は結い上げた髪を少し落ち着く無く触れてから俺を見て口元を少しだけ上げた。

「・・・明日から、朝必ず俺の部屋に来い。」
「・・・了解、」


金色、藁色、小麦色


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