魔法の呪文 | ナノ


急がばなんとか


警察組織の仕事には様々なものがある。テレビで見るような派手な逮捕劇もその一環だが、地味な事務仕事や参考書類の収集などもその一環である。そんな私は現在、先日起こったNEXT関係の事件の書類を某ヒーロー会社まで取りに来ていると言う次第である。

目の前にはいかにも顔を隠してますよ、と言っているようなマスクをしている人の手元をじっと見ていると、ちょっとした事を思った。 彼も私のように、あまり座りっぱなしというのは好きではないらしい、と言うことを。

「あのぉー・・・雅・・・さん?」
「・・・はい、何でしょう。」

手で遊んでいた扇子をきちんと持ち返事をする。見ると、彼は少し困った顔をしていた。

「俺さ、あんまり見られると、仕事に集中できないっていうか・・・。」

困っちゃうんだよね・・・と首を傾げながら言われても、正直私だって困るんですが。



「おじさん。そんなこと言って、また脱走する気でしょう。・・・全く、懲りない人だ。」
「おいバニー!脱走じゃねぇ、あれは息抜きという散歩「でも逃げたことには変わり有りませんよね?」・・・。」
「・・・・・・『また』?」
「ええ。この人、一回逃げ出してるんですよ。」

そう言って、彼が自分のデスクに座り直すのを横目で見ながら、私は呟く。

「別に、自分は帰っても良いんですけども・・・ちょっとした用事のついでなので。」
「・・・用事?」

少し浮き始めた帽子を、しっかりと押さえつけながら、私は頷く。

「いえ、以前ご迷惑をお掛けした方に挨拶をしようと思いまして。」
「それも仕事?」
「仕事が一段落着いたので、見回りと書類の回収のついでに・・・ですけど。」

時間が空いているときにやることをやらないと、いつまで経ってもやれないので。そう苦笑して言うと、「ケーサツも大変なんだな。」と言うので首を振る。

「そうでもないですよ、慣れれば。・・・あと、公務員なので基本定時に帰れますので。そちらは大変そうですよね。」
「・・・まぁ・・・ぼちぼちかな。」
「・・・そう言う事件の時はお世話になってます。」

当たり障りのない返事を返すと、椅子が引かれた音がしたと同時に、非難の色を含んだ声が聞こえる。

「おじさんは逆に警察の方に迷惑かけてると思いますよ。・・・あと、その書類を早くその・・・。」
「自己紹介遅れました。刑事特別犯罪部1課の雅です。」
「はい、雅さんですね。・・・で、その雅さんに提出してください。もう何時間掛かっていると思っているんですか。」
「うっせーな!書類の量が多いんだって!「溜めてたおじさんが悪いと思いますけど・・・。」あ!?」
「・・・・・・あの、別に出来なかったら、送ってくだされば結構ですので。それに、時間はまだまだありますし。」

時計をちらりと見ながら、そう言うと「じゃぁ・・・俺ちょっと気晴らしにトレーニングしてきて良いか?」なんて言い始めた。

「駄目に決まって「構いませんよ。」・・・はぁ?雅さん、貴方警察のくせに甘いんですね。」

そう言われて少しカチンとくるが、軽く息を吸った後、気にせず目の前で書類と格闘している人に話しかけた。

「私もそこに行くので、道案内頼めますか?」
「え、行くの!?」
「行きますよ・・・何か問題でも?」
「いーえ、滅相もございません!!」
「まぁ、あの人が来るまでは書類と格闘していただきますけどね。」
「よっしゃぁ!! って・・・『あの人』って誰?」

そう聞かれて、此処は本名を出して良いものなのか少し考えてしまう。といっても、私はこの人のヒーローの名前を知らない。(確か・・・タイガーが付いていた気が。)

「まぁ・・・会えば分かると思いますよ。はい。」

取りあえず、道案内、宜しく頼みますね。そういうと、子供みたいに笑って「おうっ、任された!」と返事をされた。


The more haste, the less speed. 


「・・・いました。」
「ん、どいつだ?・・・・・・って、あれ。アントニオじゃねぇか!!」
「何だ虎鉄・・・って雅さん?」
「いえ、雅で結構です。」

私そんなに偉くないので、と言えば虎鉄と呼ばれたさっきの人にこづかれた。

「アントニオなら、初めからそう言ってくれれば良かったのによ?」
「だってヒーロー同士が本名を知っているとは限らないじゃないですか・・・」

他社で働くヒーロー同士の交流関係など、こちらは知る事は滅多にないのだから知らなくて当然であるのだが。
なんとなく拍子抜けした顔でそう言われてしまってはこちらとしても苦笑するしかなくなって、笑って誤魔化させて頂きましたとも、ええ。

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