一寸先は何とやら 「お前がやったんだろう!!」 「おれは、なにも・・・やってない・・・。」 とっくに調べは付いているんだぞ!とか、お決まりの台詞を言い出しかねない、この新人ともう害者にしか見えない容疑者をボーっと眺める。流石日本人、刑事ドラマがここまで影響されるとは思っても見なかった。まぁ、私もその一人なんだが、とか思って、軽く口角を上げていると「雅さん、こいつ何も吐きませんよ!」と言い始めたのに対し、私は冷静に尋ねた。 「・・・名前、聞いた?」 「・・・・・・あ。」 それに苦笑しながら、新人と私の位置を交代した。 「どーも、こんばんは。まぁ、取りあえず食べなよ。」 丼物じゃなくて悪いけど。と言いながら、帰り道にあった牛角の限定焼き肉弁当を目の前に置く。 「・・・・・・。」 「ん?あぁ、焼き肉が好きじゃなかっ「いや、そう言う意味じゃなくてだな!」・・・じゃあ、食べなよ。」 そして、複雑そうな顔をしているこのお兄さんに、取りあえずフォークを渡しながら尋ねた。(食べているところを見ると、焼き肉は嫌いじゃないらしい。) 「私の名前は雅だ。・・・お兄さんの名前は?」 「アントニオ・ロペスだ・・・。」 答えないから、いつものように勝手に命名しようと思ったら、意外にもあっさり答えてくれて、呆気にとられてしまう。 「年齢は・・・飛ばして、と。職業は?」 歳は良いのか、と聞かれたので「どうせまた別の班に聞かれるから、構わない。」と答えると、それで良いのか・・・みたいな顔をしながらも淡々と質問に答えてくれた。 「職業は正社員、会社はクロノスフーズ・・・お兄さんには、配属先とかはないのか?」 「は、配属先・・・?」 「ほら、広報課とか経理課とか。言いたくなかったら構わない。」 「・・・いつもこんな取り調べなのか?」 「よく言われるが、他の人のは厳しいらしいからな。全ての取り調べがきつかったら、相手も人だ、可哀想だろう?」 まぁ、確かにそうだ、と呟いて相手は納得をする。それを見ながら、私は本題に斬り込むことにした。 「で、だ。どうしてこんな、いかにも怪しい格好をしていたんだ?」 そう言って掴むのは、アントニオ・ロペスと名乗るお兄さんが被っていた覆面。この後に続いた答えに、私は驚く羽目になった。 「今日は同僚の誕生日で、その・・・サプライズをするために、この衣装を着て路地裏に立っていた。」 「・・・・・・それは・・・本当か・・・?」 頼む!信じてくれ!!と言い始めた、そのお兄さんに私は言うが、反対に私は冷たく言い放った。 「それが本当なら、まどろっこしい行動・服装は止めていただきたい。」 「・・・すいません。」 それを聞くと、私は扉の方へと歩き出した。すると、さっきまで黙っていた新人は「何処に行くんですか?」と私に尋ねる。 「ん?ウラをとりに。その間まで、そのお兄さんと話でもすると良い。」 疲れの所為か、いつもよりも重く感じる扉をゆっくり閉めながら、深い溜息をつき、私はクロノスフーズの電話番号を押し始めた。 私が帰ってくると「雅さんどうでした!?」と、私の元に寄ってくる。(相手はげっそりしているところを見ると、世間話じゃなくて彼なりの尋問が続いていたと見える。) 私は後3時間強で今日が終わってしまうと告げている時計を見ながら、呟いた。 「・・・ウラがとれた、釈放だ。」 そう言って、私は扉に掛かっていた鍵を取って、新人に言った。 「残業はこれにて終了だ。・・・さっさと帰ろう。」 そう言って、まだ少し納得していない彼を先に行かせる。ロッカールームへと行ったのを見届けてから、私は座っているであろうお兄さんを見る。 「・・・自分、車なんですよね。小さいですが。」 そう言って、大柄なお兄さんの為に重たいドアを大きく開ける。 「ご足労ありがとうございました。差し支えなければ、送っていきますよ、ヒーロー。」 Who can read the future ? 「まさか、ヒーローを尋問するとは・・・人生、何があるか分かったものじゃないですね。」 「・・・俺もされるとは、思っても見なかったさ。」 そこを左。と言われ、私は左にウィンカーを出す。 「ヒーローって事、隠すのも大変そうですね。」 何の気無しに尋問のことを思い出しながら、そう呟いて私はハンドルを切った。もう、こんな出来事は、起こらないだろう。そう思っていると、何かしら起こることがあるんだと、この時は知らなかった。 back |