魔法の呪文 | ナノ


何かの道も一歩から


けたたましいサイレンの音が響き、足音も何もかもかき消されてしまう。空ではヘリが一生懸命空気を切りながら、同じようなところを飛ぼうと必死である。そんな色んな音が溢れているなか、今の状況には似合わないゆったりとした足音とパチンと小さく何かを叩く音が微かに響く。

「そろそろ奴さん方も、痺れを切らしてくる頃か。」

その音を出したと思われる扇子を、黒いコートの内側にしまう人がそう言うと、周りの人物達が微かに動く。その様子をちらりと視た後、帽子を被り直して口をゆっくりと動かし始める。

「さぁ、反撃開始だ。」

そう静かに言うと、小さな集団はバラバラになり始め、残るのは忙しく走る音と、サイレンやヘリの音だけだった。



犯罪者を捕まえたので帰ろうとすると、ふと、何の気無しに見た警察官の団体の一人と目が合った気がした。

「・・・・・・。」

少しの間、目を離さないで見ていると、向こうの奴は軽く俺に会釈をしたあと、周りにいた人に視線を戻した。何かちょっとバニーちゃんに似てるなぁ・・・とか思って見ていたら、いきなり肩に腕をかけられる。

「うをぁ!?」
「失礼しちゃうわね、その反応。・・・で、ワイルドタイガーは帰らないで、何を見てたのかしら。」

ファイアーエンブレムもとい、ネイサンにそう話しかけられ、『あいつ、何かバニーちゃんに似てね?』と言ってみる。

「あいつ・・・・?あぁ、『将軍』の事かしら。」
「ショーグン?しょうぐんって、あの武将とかの将軍?」
「ええ、多分そう。知らないの?結構有名よ。」

有名よ、と言われても生憎警察に知り合いは居ないし、知ろうとも思っていなかった世界だ。 しらねぇ、と呟きながら、肩をすくめて首を横に動かすと「アンタって、ほんっと何にも知らないのね・・・。」と呆れられた視線が突き刺さる。

「“ブラックマリア”って言う別名が付いている捜査班なんだけど。」

何だそのおどろおどろしい名前は。警察組織の名前にふさわしくない名前だな。

「・・・思ってること、顔に出てるわよ。」
「え、あ。お、俺は何も思ってないぜ!!」
「すごく解りやすいわね、まぁ良いけど。で、『将軍』ってのが、そこのリーダー。」

・・・そう言えばあの班、検挙率No.1なのよ!ハードボイルドで有能な男って素敵よねぇ、とそう語り始めたネイサンの話は聞かないことにして、俺はもう一度さっきの奴を見ようと、周りを見回す。

「あれ?」

さっきの団体、さっきの人物を探そうと視線を動かしてみたが、もう見あたらない。

「・・・もう帰ったのか「ヒーロー殿は、誰かお探しですか?」うおぁ!?」

目の前にいるのは、探していた人物で。(横にいたネイサンの目が光ったような・・・まぁ、俺は気にしないことにする。)

「いやぁ、ははは・・・べ、別に誰も探してねぇってか、いや・・・その、お、お邪魔でした?」
「いえ、別に。こちらの仕事はもう終わったので、構いません。」

淡々と言うそいつは、しゃべり方もバニーちゃんみたいな話し方をしていた。まぁ、ちょっとは物言いが柔らかいけどな。そう思っていると、どこからかアラームの音が小さく聞こえる。その音は目の前にいるそいつからで、「少し、失礼します。」と言い、少し離れたところで誰かと話し始める。

「・・・私だ。」
『あ!雅さん、ちょっとお疲れの所申し訳ないんですけど・・・。』
「どうかしたか?」

電話の主は最近入ってきた新人で、私が尋ねると、とても困ったように話始める。

『何か、犯人の一味らしき人物がこっちに回されたんですけど・・・、僕はまだ一人で尋問出来ないので・・・。』

新人以外の部下達はこのヤマの犯人が捕まった後、帰らせてしまったし、かと言って彼はまだ新人なので尋問が出来ない・・・らしい。

「そんな規則、爆発しろと言いたいが・・・まぁ仕方がない。今から行く。」
『すいません、雅さん・・・。』

そう呟く彼を少しばかり慰めてから、私は電話を切る。その時は今日はちょいとばかし大変だな。としか思ってなかった。


A journey of a thousand miles begins with a single step.


「すいません、急用が入りましたので、これで失礼します。」

そう言った後ぺこりとお辞儀をすると、颯爽と去っていく雅の後ろ姿をボーっと見送る。 まさか、またすぐに会うとは思ってもみなかったが。

(雅・・・素敵な名前じゃないの!アタシも話したかったわ。)
(エンブレム・・・大丈夫か?って、そういえばロックバイソンって何処行ったんだ?)

(・・・いないわね、そう言えば。)
(・・・・・・・あれ?)



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