魔法の呪文 | ナノ


Good bye blue bird !!


「雅ー、いるかい?」

そう言って彼女の部屋に入ってみても、何も反応が無く。不思議に思って、中へズカズカ侵入してみると。むに、と何かを軽く踏んだ。

「・・・・・・!!!」

死体じゃなくて良かったと言うところかよく分からないけれども、踏んだのは雅の腕。そして、それでも彼女は横に寝そべっている。さっきの所為で若干早くなっている鼓動を落ち着けるために深呼吸をした後、彼女の顔色を伺う。痛かっただろうか、それとも踏んだことを怒っているのかも知れないし・・・いや、全然会いに来れなかった自分に怒っているのかも知れない。反応がない雅の気持ちを、自分の中で自己完結させつつも、おそるおそる、そっぽを向いている彼女の顔を見る。

「・・・寝てる。」

さっき踏んだことも分からないくらいに寝ている。寝たふりかと思って、キスをしてみても、やっぱり顔色は変わらない。

「寝てるのか・・・それぐらい今、仕事が忙しいのかい?」

そう尋ねても、相手は何の返答もない。

「・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・。」

どうして雅の部屋に来たのかをこの優しい沈黙の中、ふと思い出す。今日は、雅と買い物に行く約束だったはずだ。それなのに、いきなり呼び出され(まぁ、彼女も仕事上呼び出されたのだけれども。)結局久しぶりの外出は無くなってしまった。

「・・・すまない、そして本当にすまない。」

夢の中の彼女に届いたか解らないが、そう呟いて、彼女の頭を撫でる。すると「むー・・・。」とか、よく分からない言葉を発しながら、彼女はうっすら目を開く。買い物すらまともに出来ず、そして彼女の安眠を妨害するなんて、恋人失格だ・・・・。と心で呟きながら、雅の顔を覗き込む。目の焦点が合っていない。まだ夢と現を行ったり来たりしているらしい。

「雅すまない、起こしてしまったね。」
「ん・・・。」

まだ寝たいのだろう、そう思い、彼女をソファーに乗せて、自分は少し残っている所に気まずそうにちょこんと座る。

「・・・きぃす?」

若干目が開きながら、そう呟いたので「ああ、私だよ。」と答える。

「すまない雅、そして本当にすまない。・・・買い物、行けなくなってしまって。」
「・・・んー、いーよ。あおい、とり・・・いらないから。」
「・・・・・・それは寝言かい?」

多分夢だと思っているのだろう、彼女は眠たそうに言葉を紡ぐ。

「きぃすが、いればいい。」

話の内容から察するに、雅の夢の中に物語の青い鳥が出てきているのだろう。

「・・・私だと、雅を幸せに出来ないかも知れない、としても?」

反応が無くても、その時はその時だ。そう思いながら、彼女に話しかけてみる。すると、彼女は一言、「私、欲張りだから。」と言う。不思議に思って、続きを聞いてみると。

「とりよりも、あおい・・・おーきなそらが、ほしい。」


Good bye blue bird !! 


そう言ってふにゃりと笑うと、彼女はさも当然かのように私の太股に頭を預けて、背中に腕を回し、そして、寝た。

「・・・・・・。」

そんな一部始終を見た後、糸が切れたようにソファーの背もたれに倒れ込む。危ない、そして本当に危ない。多分情けないくらいに赤い顔をしている自分の口元を覆って、そう、心の中で呟く。甘えたがらない、あまりそう言う言葉も言わない。そんな彼女が、こんな行動するとは思っても見なかった。ちらりと彼女を見ると、さっきのことは無かったかのように、夢の中の住人になってしまっている。その後、私だけ・・・と少しムキになってしまって、雅にちょっかいをかけ始めるのは、また別のお話。

(どうやら私にも、皆が追い求める青い鳥は要らないらしい。ここにはメーテルリンクも驚くような幸せがあるから・・・なんて、少しくさかっただろうか。)



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