一夜限りの変身術 「雅今暇かな?」 と電話でキースさんに言われ、暇だったので指定された場所に来てみると。 「・・・・・・ここ、何ですか。」 「ん、ああ。ここはネイサンが経営してる店でね、すごくレモネードが美味しいんだ。 君も気に入ると思う、私はそう思う。」 いや、レモネード云々の前ににこやかに笑って中に招き入れようとしている彼には、少し、言いづらいのだけれども。褌倶楽部って・・・ちょっと何かしら怪しいと思うんですが。(むしろ見た目も怪しい。) 「・・・あの、喫茶店ですか?」 「勿論だとも!」 そう言われてしまったので、渋々中にはいることにした。 「で、なんで雅を連れてきてるのかしら。」 「多分雅の方がこう言うの心得ていると思ってね!私よりも多分上手いと思う、そして彼女なら良いお手本になってくれる。」 「だからって、あんた、連れてくる!?「任せてくれネイサン!」何でそんな自信満々なの・・・」 「・・・あの【手本】って何ですか。」 「あ、その。雅さんがホストを体験してみるというか、何というか・・・。」 「はぁ・・・大体話は見えましたけど、私女です。「そうよ、スカイハイ!雅は女の子なのよ、やれない。」 そうネイサンが否定すると、キースさんは「雅なら大丈夫!」と何故か自信満々である。 「ネイサンだって初めは雅を男だと勘違いしてたじゃないか!だから手本としての資格は充分にあると私は思う、そして思う。」 「まぁ・・・そうだけど。」 「あの、【だって】ってどういうことですか。」 そうみんなに聞いてみても、誰も返事をせず、しかもネイサンはと言うとじろじろこちらを上から下まで見てくる。 「まぁ・・・顔、綺麗だしねぇ・・・。」 「・・・えっと、ネイサン?」 何か、嫌な予感がしてきたので、早まらないでください。と、言おうと思った瞬間。 「良いわよ。雅、ちょっとやってみて頂戴。」 「「えぇぇえぇー!?」」 そんな宣告をされた瞬間、私とイワンは同時に信じられないと言うように、非難と驚きの入り交じった声があがった。店の予備のスーツを半ば無理矢理着せられて、私は今、鏡の前で自分の姿を見てみる。確かに、スカートよりかは断然良い。スーツはむしろ着たい部類に入るはずなのに、今は少し複雑な気持ちでスーツの生地を確かめるようになぞってしまう。着替える前に聞いた話では、キースさんやイワンはスーツを着ていないらしい。 「・・・・・・なに、この格差。」 まぁ確かに、自分は女だから少しでもそれっぽく見せるために、着せた・・・と思いたいところではあるが。 「なんか、ちょっと違う気がするんだよなぁ・・・。」 スーツを渡すネイサンの目が少し怖かったのを思い出しながら呟く。 「雅まだ?」 そう言ってひょっこり顔を着替え場のカーテンから顔を出すネイサンがいて、私は慌てて開いたカーテンを閉める。 「勝手に開けないでください!」 「いーじゃない!あんた着替え終わってたんだし!!」 「着替え終わってなかったらどうするんですか・・・。」 その時はその時よ。と悪気もなくけろりと言い放つネイサンに呆れながらも、渋々外へ一歩踏み出した。イワンやキースさんが「わぁ。」とか何とか言っている横を通り過ぎて、もう既にソファーに座って待ちかまえていると思われるネイサンに一言。 「さて、いつから【お手本】を見せれば良いんでしょう?」 ニコリと笑ってネイサンの隣に座った。 「演技力には自信がありまして。」 あんたスーツとか着ると性格変わるのね・・・と言われたので、私はゆっくりと首を振る。 「ステージに上がった役者は、幕が閉まるまでが勝負なものでして。」 演じきって魅せますよ。と、私はネイサンに宣戦布告をした。 舞台は未だ、始まった back |