パンドラの箱 ぴんぽーん、と間延びした音が聞こえてくる。誰かが来たようだ。 「・・・・・・はい。」 何か郵便でも来たのだろうとか、勝手に推測しながらチェーンを外して扉を開けた。 「ペトロフさん、はっぴーはろうぃーん。」 「・・・・・・あの、雅さん?」 「はい。」 「・・・貴女、そんなキャラでしたか?」 仕事などで会うときの彼女はもっと真面目な人物だったと覚えているが・・・私の間違いだっただろうか。 「何かすみませんね・・・。」 「いえ、私もお菓子を頂きましたから・・・それに、外は少し寒かったでしょう。」 正直甘いものは苦手なのだが社交辞令的に、致し方あるまい。少し寒かったですねーと返事をする彼女をソファーへと案内する。ここでさっさと家に帰らせるのは少々如何なものかと思い、中に入れたのだが。 「それにしても・・・雅さん?」 「え。はい、何ですか?」 「・・・いえ・・・雅さんはコーヒーでよろしかったかな、と。」 「あ、いえ。お構いなく。すぐに帰りますから。」 もう日が暮れていると言うのに、男の家にホイホイ乗り込んでしまうとは・・・考えが浅い。取りあえずコーヒーを淹れに行こうと思い、席を立った。 「・・・そういえば、家に他人を入れたのは久しぶりでしたね。」 何となく不思議な気分を感じながら、そう、独り言を呟いた。 ペトロフさんがコーヒーを淹れに行っている間、私は失礼だとは思ったが、辺りをキョロキョロ見回してしまう。 いつものお礼と思って渡したのだけれども。(そしてさっさと帰りたかった。)どうも断りづらくて現在高級そうなソファーに座る羽目に。 確かにペトロフさんと面談するよりかは、コーヒーでもなんでも淹れてくれる方が有り難い。 ペトロフさんとの話題がきっとないだろうから。・・・休みなのに、仕事の話はどうかと思う。とか苦笑しながら、取りあえず話題探しに周りを見渡してみる。 「取りあえず、何から何まで高級そうだなぁ・・・ん?」 一般市民な私は、きっと共通の話題は仕事しかない。そう決めかけていたときだ。 「・・・・・・あ、あれは・・・。」 扉の隙間から見えるアレは、きっと彼の物で。 かちゃりとカップが鳴る音が聞こえるまで、それと目を合わせていた。 パンドラと10月31日 「ペトロフさんは・・・ルナティックが好きなんですか?」 「え・・・いえ。ああいうのは・・・。」 「?・・・じゃぁ、アレはハロウィンの仮装ですか?」 「アレ・・・と言いますと?・・・・・・!!」 見れば、若干開いた扉からルナティックのマスクが見えた。きっと他にも部屋の内部とかを見られているに違いない。 「・・・・・・まぁ、そんな所です。」 「へぇ・・・ペトロフさんもハロウィン楽しみにしてたんですね。」 貴様と一緒にするな。言い訳を口では紡ぎながら心でそう呟き、単純な奴という答えに行き着き、軽く失望してしまう。 なかなか私は貴女の事をかっていたのですが。そう小さく呟けば、目の前の雅は聞き取れていなかったのか、首を傾げていた。 雅が帰った後袋の中身を仕方なく覗いてみると、そこには甘そうな菓子はなく、苦めの物しかない。 ・・・よく見ている。口の中に放り込んでみれば、丁度良い苦みが広がる。 「・・・もしかしたら、全部、計算だったのかもしれませんね。」 だからといって、何故か口封じをする事を全く考えていない自分に、軽く笑ってしまう。 「本当に、食えない方だ。」 見えないモノよりも、質が悪い。そう思いながら、口の中にある物を色んなモノと一緒に飲み込んだ。 back |