魔法の呪文 | ナノ


ブラックな仮定


虎徹さんが暇だという話だったので、久しぶりに虎徹さんの家に遊びに来てみた。

「雅、適当にくつろいでいけよー。」
「はぁ・・・ありがとうございます。」

けど来るって言ってあったのだから、この床に散らかったゴミを何とかして欲しかったです。仕方なくゴミを片づけていると、彼は冷蔵庫の中から紙パックのコーヒーをとりだして机の上に置いた。

「何です、それ。」
「あ、これ?雅の分。」

遊びに来た人間にコーヒーすらまともに出さないのか。そう思っていたのが顔に出ていたのか、「昼飯の炒飯は作ってやるから我慢しろよ!!」と私に声を掛ける。そんな彼に小さく溜息を付いて、結構年季が入ってそうなソファーに座り込んでテレビをつける。その瞬間に画面に出るのはニュース番組。

「・・・・・・虎徹さん、ニュース見るんですね。」
「なぁ、雅の中の俺のイメージってどんなのなの!?俺だってそりゃぁ、ニュースの一つや二つ見るんだけど!」

黒い箱の中の女の人に負けない音量でそう私に言った。

「へぇ・・・意外です。」
「雅お前ホント、バニーちゃんに似てるよな。」
「そうですかねぇ・・・あ、虎徹さん。今ニュースで言ってたんですけど、食中毒が流行っているらしいですよ。気を付けてくださいね。」
「お前、ほんっと・・・もう作ってやんねーぞ!!」

あはははは、すいません。と冗談を言うように謝ってみると、ふと、自分が飲んでいるコーヒーに目がいった。

「・・・・・・ねぇ、虎徹さん。もし、私が死んだらどうしますか。」

箱の中のお姉さんが、食中毒で死人が出ていると言う話をしているのを聞きながら、私は小さく呟いた。

「・・・雅、そう言うのは「冗談ですよ。」冗談でもなぁ・・・!!」

私の呟きを聞き流してくれなかった彼は、一瞬何とも言えないような真剣さを帯びた顔をした後、寂しそうにそう言った。

「大丈夫ですよ、虎徹さんよりは長生きしますよ。私若いですし。」
「・・・・・・なにそれ、嫌味?」
「いーえ、本当のことです。まぁ、でも。警察なんてやってるとどうなるかは解りませんけど。」

静かになってしまったこの場の空気に気を遣って、音を立てないようにゆっくりとコーヒーを飲み込む。・・・味はそこそこだ。

「ただ、貴方よりは先には絶対死んでなんかやりませんから。」

そんな顔させたくないですし。と心の中で呟きながら、それを言葉にする前に私はそれをコーヒーで流し込んだ。


ブラックコーヒーな仮定 


「何でそんなこと言い出すかねぇ、雅は。」
「いえ、虎徹さんが私を殺したいのかと思いまして。」
「は!?ンなことする訳が・・・あ?コーヒー?」

コーヒーを突き出して、賞味期限の所を指さす。

「1年位切れてて、牛乳入ってたので・・・ちょっと不安になりまして。」

まぁ、消費が本当は怖いんですけどね。賞味は別に味の保障なので切れてたって怖くないんですが。たまには冷蔵庫の掃除もした方が良いんじゃないですか?と聞く途中で、彼は私が持っていたコーヒーを奪い取る。そして、からんからんと小気味のいい音をたてながら、それはゴミ箱の中に落ちていった。その音が響く途中で、ばか。とクシャリと顔を歪めて虎徹さんが小さく呟いた。

(雅こんなもん飲むなよ!)
(え、貴方がくれたんじゃないですか、まぁ、味も飲み心地もおかしくなかったので、大丈夫ですよ。私、お腹強いですし。)
(そーいう問題じゃねぇの!!というか、持ったときすっげえ軽かったんだけど!?)
(あぁ・・・全部飲みましたし。あ、紙パック捨てていただいて、ありがとうございました。それと、お腹減りました。)
(お前、ホント・・・・・!!)


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