君の隣 | ナノ


シャンパンの魔法


夕日が地平線と重なって、沈み始めた頃。巣に帰るカラスよろしく、キッスが主人を乗せて店に帰ってきた。だいたい彼等がここから去ってだいたい4時間ほどだろうか。

「随分遅かったな。それで、リクエストは?」
「料理の方はバランス良く美味しいもの作ってくれればそれで良いよ。」 
「・・・そういうのが一番難しいって知ってるか?」
「じゃあ和食で頼める?」

にっこりと笑う彼から食材を受け取ろうとすると断られた。

「ちょっと買いすぎちゃって重たいから、僕が運ぶよ。」
「そっか。じゃあ頼むわ。」

こういう事を自然にやるから女子にモテるんだろうなぁ。ヒュゥと口笛を吹けば、品がないと空いている左手で唇に指をあてられた。むぅ・・・流石色男。やることがいちいち心臓に悪い。

「だいたい1時間くらいで出来るよ。お腹空いてるなら順番に出すけどどうする?」
「うん、待ってるから一緒に食べよう? 一人で食べるのも味気ないし。」
「了解。」

てきぱきとした包丁捌きは料理人になろうと奮闘していた時期に、いくつかの高名な料理屋などに修行しに行っていた甲斐があったというものだ。まぁ結局美食屋におちついてしまった今でもなんだかんだで料理は趣味でやっていけているし。それになにより、美食屋としても料理人としてもそこそこの両立ができたので、パートーナーを必要としなくても気ままにハントに行けるのが最大の利点だろうか。配膳はココに手伝って貰ったのもあり、考え事をしながらでもなんだかんだで机に料理が並んだのは彼等が到着してから1時間も経っていない頃であった。

「さて、じゃあ頂くとしようかな。」
「頂きます。」

テーブルに向かい合わせで座って食べるのも何回目になるだろうか。食事中は食事に集中する彼だから、と油断していた俺が全面的に悪い。何も考えず食事していた時に、にっこりと笑いながら彼の手が唇に伸びてくる。

「え?」
「ここ、ついてる。」

ちょん、と指でつつかれた所には多分なにか付着していたのだろう。今日の食卓を見る限り、付くとしたらあんかけソースくらいだろうか。

「ああ、悪い。」

口を拭おうとしたらそのまま顎を引かれ、強引に唇を重ねられた。スキンシップが過剰なのは、以前からだから別段驚きもしないのだが。

「・・・ココ、食事中はやめろ。」
「うん、分かってる。でも美味しそうだったからつい。」

なら仕方ないか・・・と思って、自分で突っ込みを入れる。

「いやいやいや、俺食べ物じゃ無いし。」
「え、そうだったっけ?」

くすくすと笑い出した彼に毒気を抜かれて、また大人しく食卓に戻る。皿の中の料理をほとんど2人で平らげた所で、冷蔵庫へ向かう。

「あ。そうだデザートあるんだ。」
「え、そんな暇あったっけ?」
「いや、冷凍庫に昨日つくったシャーベットあったの思い出してさ。」

シャーベットを出している間にココが皿を片づけてくれたので、机の上にはガラスグラスに乗せられた緑色のシャーベットが2つ並ぶ。

「ココって酒駄目っていってるけど、本当に弱いのでも駄目?」
「うん、出来るだけ飲むのは控えてるけど、なんで?」
「いや、俺さ。このまえ遊びに行った先でシャーベットの周りにカクテル入れてるやつ食べてさ。」

美味しかったから、それ自分でも作ろうと思ってこれ作ってたんだけどね。そう呟けばココが、少量なら飲めないことないよ?と言うので店から本当に弱いアルコールを持ち出す。

「視覚的にも綺麗だし、飲んで良し、食べて良し、って良いだろ?」
「うん、全くその通りだね。」

とくとくと注いだゴールドのシャンパンをシャーベットに一周させて注げば、綺麗な金から緑のグラデーション。シャンパンの中で揺れながら溶け出す緑はまるで目の前の男のようだと思った。


シャンパンの魔法



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