君の隣 | ナノ


理由なんて存外簡単


「おい、十夢・・・コラ!!」

締め切られたガレージの裏口に向け、軽く蹴りを入れればドンと鈍い音。それでも依頼主はその扉の鍵を開ける気は無いらしい。

「ったく、蹴破ればいいか・・・?」

ドンドンと断続的につま先でドアを蹴ればようやくがちゃりと鍵の開く音がする。

「ったく、どちら様・・・って、おお!ギンか。」
「依頼しておいてそれかよ。 要らないんだったら他の店に流すけどね。」
「いやいや、助かった。それにしてもこんな時に来なくても・・・って・・・げ。」

ちょっとだけ開いた扉で会話していると、十夢がさっと手から小瓶を受取って扉を閉める。原因なんて1つしかない。きっと自分の後をついてきていたあの男である。閉められてしまった扉に向かって、依頼料は振込で頼む、と告げれば扉を内側から軽くノックする音がした。了承、という事で良いのだろう。

「ったく、厄介な・・・」

次から依頼が来なくなったらゼブラの所為だ。ギロリと赤い髪を書く男を見上げれば、男は顔をしかめてまた舌打ちをした。

「なんだアイツ・・・調子のってんなァ・・・!!」
「いやいや、普通の奴の反応はあれであってると思うぜ。」

特に十夢は客と直に接する商売だし、売り物も売り物であるから、正直ゼブラとは関わりたくない、というのは頷ける。というか、それすら仕方ない反応である。できるなら俺だって関わりたくない。

「さ、一応これで仕事は終わったから。 ちょっと離れた所で用件聞こうか。」
「できれば飯の食える所で頼むぜ。」

男の答えに俺は目を見開いた。

「え、飯?」

どうせ相手の事だからそのまま喧嘩になると思っていたので、飯喰って話というのが想定外すぎて唖然としてしまう。それに男は苛つきながらこちらを見る。

「あァ・・・早くしろよ。俺の気は長くねェんだ・・・!!」
「お、おぅ・・・。じゃあ、俺の家で良いか?」

どうせ普通の飲食店ではゼブラが居るのを確認したら扉を閉めてしまうだろうから。

「食えりゃ、どこでもいいぜ。」
「そうか。じゃ付いてこいよ。」

ちょっと歩くけどな、と付け加えたら後ろから腰を掴まれた。

「だっ?!」
「お前、鍛えてる割に細せぇな・・・んで、家ってのは何処だ?」

脇腹あたりに無理矢理抱えられる。じたばたと藻掻いても太い腕は下ろしてくれそうにない。抜け出そうと本気を出せば抜け出せない事はないのだが、下手に刺激するのもな・・・

「・・・あっちです。つか急ぐなら俺も走るので下ろして頂けます?」
「俺が走った方が早い。暴れんな、走りにくい。」
「・・・そうですか。」

もう何を言っても相手のペースだなぁと、何度か道を示していれば、あのとき予定していたよりも早い時間に家に着くことが出来た。

「あ、あれ俺の家。 副業で一応飲食店やってるんだけど。」

今朝そういえばこいつ来たことあるんだっけか。と思い直して一応補足。そして一回来たことあるんだったら道案内って不要だったんじゃないかと思いつつ、扉を開いて店に招き入れてやる。

「適当に座っててよ。」

冷蔵庫から適当にあり合わせだけ出しておいてから、今日の分の仕入が出来ていないので、昨日仕入れた物をざっと調理して並べて出す。知人から大食らいと聞いていたので冷蔵庫の中を全て使ってしまったのだが・・・。食べきれるか、と思ってみていればその全てがどんどん男の口に吸い込まれるように消えていく。

(話通りの食欲だな。てか腹いっぱいになったら帰ってくれるとか・・・そういう事は無いんだろうな・・・)

とりあえず喧嘩になれば怪我はするだろうと予測し、男が食べている間にしまい込んだ薬を探しに行く事にした。あと知人にもちろんメールも忘れない。仕事合間に見てくれれば良いのだが。文明の機器が苦手な彼がいつメールを見るかなど分からないが、しないよりましだろう。


理由なんて存外簡単な物である 



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