君の隣 | ナノ


交わる視線


「うわっ・・・」

足下にぐにゃりとした違和感を感じて体勢を崩す。ふと踏んだ物をみやれば、それは自分の太股ほどありそうな二の腕だった。危険区域で行き倒れているとなれば、大抵ハントに失敗した美食屋だろう。獲物に逆にやられて・・・って所か、と自己完結して帰路につこうとすれば、進めた足をなにかに取られてさらに体勢を崩して転ぶ。腕でガードしたものの、前のめりで転んだ所為で子供のように腕をすりむいた。

「・・・なに・・・こいつ、生きてンの?」

転んだ原因は、現在も足を強く掴む太い腕。随分と執念深い・・・否、生存者であっても正直助ける義理はないのであるが、今回は自分も相手を踏んでしまっているのだし、足を掴まれたまま死なれても気分が悪い。先程仕留めた獲物を背に鮮度が下がる前に下準備したかったのだが・・・足を振ってみても離れない。足を思い切り引き上げても腕ごと宙にぶら下がりついてくるので、引き離そうとしてみたが、どうにも男の力が強いのか、上手く離すことができない。攻撃をして引き離してもいいのだが、死にかけの人間に鞭打つ程残虐にもなりきれない。

「仕方ねぇなぁ・・・」

人助けするかな、と腕を辿って丈の長い草むらの中に入る。その場に横になっていたのは全身傷だらけの体躯の良い男。意識があるかどうかの確認をするために顔を覗き込んでみれば、男の全身にはいくつもの裂傷と口元は大きく裂け、耳にまで達する傷が1つ。それに小さく息をのめば、気が付いたらしい男が目を開ける。ばっちり、とあってしまった視線を逸らすことさえ出来ず、そのままじっとしていると、不意に耳元に凶悪なまでの腹の鳴る音。もちろん弁解するが、俺のではない。

「腹、減ってるのか?」

背に背負った獲物の太い尾の部分を切り落として口の近くに恐る恐る運んでみる。男はニタリ、と裂けた口をさらに上に引き上げて笑う。そりゃあ男にやった肉は刺身でもいけるタイプの肉だから、美味いのだろう。勢いよく男の口元に大体の肉が吸い込まれていくのを確認して、そろり、とその場から離れようと退けば、男は俺の腕を掴んで引き上げたので、必然的に男の顔のすぐ直前に顔を引き出される形になってしまっている。
これは正直なんか、嵌められた感じがする。むしろそうなのかもしれない。倒れていた時は明らかに悪そうだった顔色だって、今見てみれば元気・・・凶悪さを増している。

(超こえー!!! なにこいつ・・・!!)

もっと寄越せ、と言わんばかりに背中の肉に視線を移した男。それに気付いて逃げ出そうとすれば、身体の部分をやはり腕で引き留められる。

「ったく、踏んだのは悪かった! ごめん、いい加減離せ!!」

じたばたと暴れて、抜け出してみれば男は面白く無いと言わんばかりにこちらを見ていた。

「・・・チッ、」
「・・・・・・。」

その場から動かない物の、こちらを気に入らないとばかりに睨み付けてくる男に、こちらとしては溜息しかでない。行き倒れている所を助けてやった(?)のに、そんなにガン付けられても困る。それにこちらは大事な依頼品も少し分け与えてやっているのにも関わらずその態度だ。助け損といえばいいのか。まぁ、元気になったら何よりだ。例えそれがどんな奴であろうとも。

「じゃあな。 もう会わねーと思うけど!」

ひらり、と男に背を向けて歩き出したが、後ろから追ってくる気配もなかったので、
もう二度と会わないものだと思っていたのだが、この時の俺の中での奴の認識はどうやら甘かったようである。

数日後。いきなり現れた男に、俺はまた振り回されることになるとはこの時はまだ知る由もない。


交わる視線、ボーダーレス

  back


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -