君の隣 | ナノ


来年もここで


「え、明日の予定?」
「うん、ギンさえよければだけど。」

電話を右肩に挟みながら忙しく調理を続ける。じゅう、と香ばしい匂いと水分が蒸発する音がする。良い感じに出来上がりそうだ。

「うーん、多分それまでには終わると思うけど。」
「仕事でも入ってるの?」
「お節がそれまでに全部仕上がってれば暇だよ。」

配達も終わってればね、と電話向こうに笑いかければ、ココは苦笑して手伝いをかって出てくれた。

「・・・ありがと。助かる。」
「そのかわり・・・ギンの作ったお節、僕も食べたいな。」
「ん、良いよ。 どうせ終わったら暇だしね。」

それじゃ、なんて電話を切ってしまってから、再度食材に向き直る。期待されているなら、それこそ何時も以上に力を入れてお節作りに没頭した。

数時間して完成した重箱。店内の机という机には全て重箱が危なくない高さのギリギリまで積まれている。有る意味で圧巻、といった所だろうか。幸い表には休みの札が掛かっているから、店内に入ってくる客が居ないのが救いである。ふ、と休憩している途中に気がついたのだが、そういえば。

「もうすぐココが来る時間・・・。」

スペースが無いな、と机を一カ所だけ開けようと思ったのだが、どう退けたとしても、新しく置く場所が考えつかない。そうこうしているうちに、外はどんどん暗くなり、
ココが手伝いに来る時間になってしまった。取りあえず年越しの蕎麦はもう茹でる準備は万端にしてあるし、それは別に心配してないのだが、食べる場所が見つからない。
床で食べる、なんてとても考える事は出来ないし。どうしたものかなんて思っていれば、戸の開く音。

「うわっ、すごいね・・・」
「それは俺も思った。」

それこそ高さもあるものだから、なんだかタワーのようだ。申し訳ない、と頭を下げれば額への軽いキス。

「問題ないよ。 キッスももう大きいから結構早く飛べるし。」
「実はそんな何カ所も運ぶところは無いんだけど、量が、ね。」

配達の地図を渡せば、苦笑を返される。

「トリコに、会長、・・・見知った顔だね。」
「細々した所は自分が運ぶから、そこだけよろしく!」

むしろ、それが一番大変なのだが。それを解っているから正直申し訳ないのだが、街にココを放りだして、囲まれないで帰ってこられるという保障が無いため仕方ない。ばさり、と大風呂敷にくるんだ重箱をキッスの背中に積み込んで固定する。

「・・・言ってくるよ。」
「・・・先に多分回れると思うから、待ってるね。」
「うん、早く戻れるようにするね。」

キッスが数回羽ばたき、空へ舞い上がる。手を振って送り出してから、自らも配達に向けて相棒に跨る。

「さっさと配達して、蕎麦食べよう。」

そしたらそれ以降はゆっくり出来るはずだ。帰ってきたら蕎麦とお節と、明日の朝にはお雑煮も。ココの好きなふわふわの卵焼きも焼いてあげても良いかもしれない。相棒の背中を撫でて、まず初めの配達先のホールに急いだ。


今年も君が幸せでありますように 



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