君の隣 | ナノ


ガトーショコラの劣情


ばったり、と居合わせたのは偶然なのか、それとも必然なのか。できれば避けたいと思っていた男とハントで一緒になる事が最近は酷く多い。個人的なハントや日常ならココの占いで避けるのだが、依頼となるとそうも行かないのが現実。

チョコレートの沸き出す泉の前で味見をしていたら、後ろから気配。誰かと思って振り返ってみれば、言わずもがな短い赤い髪を乱雑に靡かせた男が居た。

「げ、ゼブラ。」
「あ"ぁ? げ、とは何だテメェ・・・! チョーシ乗ってンなぁ・・・!」
「あ、いや・・・スミマセン。 ゼブラもチョコレート汲みに来たの?」

沸き出すチョコレートはマシュマロ岩の縁取りから零れて更に小さな泉を形成していた。ここに生えるという特殊な食用薔薇が今回の俺の依頼内容だ。スプリングローズ、天然のブランデーや、その他養分の高い泉近くに生える薔薇で、その泉ごとに花弁の色、味が形成される不思議な薔薇である。今回はチョコレートの泉というだけあって、見つけた薔薇もチョコレート色だ。依頼品はとても砕けやすい花弁であるが故に、目の前の男になにかされたら一巻の終わりだ。

「ギン、テメェ なんか面白いもの、持ってやがるな・・・」

その一言にひくりと口元が引きつる。なんでこいつ、俺の依頼品ばっかり欲しがるんだよ・・・!!!

「これは飾り用の薔薇なの。喰っても良いけど、そこの泉と同じ味だよ?」
「そうか・・・」

少しゼブラは考え込んだ後に、嘘は吐いて無いようだと呟きこちらを見た。何時も嘘を吐いてるワケじゃないし、わざわざ確認とるという行為に少しムッとした。まぁ、薔薇から興味が離れたならそれで良い。あとは自分用にチョコレートの泉からチョコレート掬って、帰れば・・・って、

「おっま・・・・! 何して・・・!!! 」

俺が薔薇を包んでチョコレート汲もうと器を用意するまでの短時間で、目の前の男は泉の岸辺に服を脱ぎ散らかし、泉のチョコレートを浴びる様に飲んでいた。いわずもがな全裸である。

「・・・っ、気分的にサイアクだ・・・!!」
「まだチョコレートは有るぜ、何怒ってンだ・・・?」

ギンは頭を掻きむしって、上機嫌の男を睨んだ。ああ、根本的にゼブラは分かっていない。

「あのなぁ・・・!普通汲んで飲むだろ!中に入る必要性は全く無ぇ!!」

服のままというのもいささか問題だが、全裸は無い。断じて認められない。せっかく家に帰ってから新作のチョコレート菓子作ろうと思ってたのに!

「おい、ギン、そんなに言うんだったらお前も来いよ。」
「・・・俺は、お前が全裸で入ったチョコレートで菓子は作れない・・・!!」

気分的に、無理。別に潔癖とかそういうのじゃない、きちんと洗って入ったとしてもそれはなんか嫌だ。

「何ごちゃごちゃいってンだ・・・!!」
「うるせー!!お前には俺の思考は理解なんて出来ねーよ!!」

でもここまできてチョコレート汲まずに帰るなんて事もしたくない俺は、ゼブラが呼ぶことも無視してひたすらチョコレートがわき出る源泉を探す。あったと気付いたものの、それは泉の中央当たりに該当しており、とても腕をのばして届く距離ではない事に溜息を付く。ちらり、とゼブラを見遣ればこちらの意図に気付いたのか顔を逸らされた。

「おい、ゼブラ。 責任とってチョコレート汲んできてくれよ。」
「あー? 自分で汲めよ。それにチョコならそこからでも汲めるだろ?」

明らかにからかう様に笑われて、無性に腹が立つ。

「ーーーっ、分かったよ! もういい!」

仕方ない、と少し離れた所からウエハースの蓮の葉、ウエハスの葉をもぎ取ってきて泉に投げる。 落ちることは無いと思うのだが、とりあえずチョコレートの泉で溺れたら洒落にならない。ざっと上着と靴、靴下を脱いだ状態で汲むバケツを手にして深呼吸。並べた葉の上をとんとんと飛び進めていけば、中心でどうにかチョコレートを汲む事が出来た。帰りも、と思って振り返った時に、帰りの蓮の葉が無いことに気付く。

「ゼーブーラー?」

現在進行で蓮の葉は奴の口の中に消えていく。足下に残る葉以外の投げた葉はほぼ全滅、といった様子にもう呆然とするしかない。

「・・・何だ、」
「俺、お前やっぱりキライだわ。」

どうやって俺そっちの岸に戻るんだよ!とキレれば、男は鼻を鳴らして笑った・

「・・・泳いで渡れば良いんじゃねぇか? それにそれほど深くねぇぞ?」

もしかして泳げねぇのか、なんて挑発されても俺は乗ったりしない。断じて。

「だいたいそんな所だ。この蓮の葉もやるから、引いて岸まで・・・オネガイシマス。」
「嘘だな。 汚れるのが嫌だとか抜かすなよ。」

お前泳げるだろ、と言い放つ男はこういう時本当厄介だ。

「よく分かってるじゃねえの。 俺は汚れるのがヤd・・・ってお前!!」

びしゃり、と顔に温い感触。服に飛び散る茶色を見て、顔に浴びたのはどう考えてもチョコレートである。

「ってめぇええええええええ!!!」

食べ物で遊ぶなと習わなかったか、と怒れば男は渋々と行った様子で蓮の葉に手をかける。 運んでくれるのかと期待したが、奴は思いっきり葉をひっくり返しやがった。もちろん乗っていた俺も泉にドボンだ。 汲んだチョコもパァだ。全身ぐっしょりとチョコレートを被った俺は仕方なく怒りを抑えて再度チョコを汲んで岸に戻った。

「最低だ!お前は最低だ!!」

仕方なく服を脱いでバッグの中の水で頭と酷い箇所だけ洗い流す。1Lしか持ってきていないので、ある程度はタオルと脱いだ服で拭うしか無かった為、今や体中から甘い匂いがして吐きそうだ。 暫くチョコレート見たくないかもしれない。

「おい、ギン。」
「あ"ぁ? まだ何か用なのか?」
「ああ、」

新しい服をバッグの中を漁りながら男を睨み付ける。男は俺を見て少し停止したあと、目を細めて笑った。

「いー格好じゃねぇか。 脱がす手間が省けるってもんだ。」
「最低だ! お前は最低だ!!」


ガトーショコラの劣情


やはり俺はしばらくチョコレートは食べれなかった。


title by 21グラムの世界

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