君の隣 | ナノ


天災という名の


あのあとトムが引っ張って、店の奥に寝かせてくれたらしい。流石元美食屋。応急処置もだいたいやっていただいた。ただ、どうなっているのか血液が止まらない。まぁどうにかしようと現在、幼なじみをここで待ちながら体力の回復を測っている形だ。

「雷鳴サイダーとかねぇの?」
「ばーか、そんな希少な物ねーよ!!」

大体うちで卸しているのは大体捕獲レベルが低い、民間の小売り相手の商品だけだと、トムに言われた。なんでも大きい商品はだいたい大手からの依頼品だそうだ。まぁたまに知り合いの美食屋から珍しい食材も仕入れているようなのだが。

ぼりぼりととりあえず野菜と果物を囓っていれば、トムが心配そうに顔を覗き込んでくる。今の俺は相当顔色が悪いらしい。

「で、お前ほどの奴がどこでミスした?」
「え、家の前。」

もぐもぐと租借しながらはこの際許して欲しい。

「はぁ?家の前ってどういう事だ。お前の家の近くそんなやばいの出るのか?」
「人。 この前のゼブラって言う奴。」

そう言えば、トムは顔を引きつらせていた。トリコという四天王と親しいトムは彼から、さほど危険じゃ無いと伝えられていたらしい。とりあえずトリコに相談してみるか?と聞かれたので首を横に振って置いた。だって、俺その人知らないし。

「で、ゼブラはどうしたんだ?」
「え、普通にノッキングして路上に放置してきたけど?」
「やばいんじゃないのか。それ。」
「俺の今の状況で、他にどうこうする余裕ってあると思う?」

つか、あいつ人も喰うの? なにそれ怖い。首筋あたりが一番酷いが、他にも無数の噛み痕と青あざが白い肌を彩る。腕一本見ても酷い有様である。

「いや・・・無いな。」
「だろう?」

ふあ、と血液不足からか、疲れからかどうにも先程から眠くて仕方がない。

「トム、緑頭のリーゼント野郎が来たら起こして?」
「なにかあったら呼べよ。」

トムは額を一撫でしてから店先に戻ったようだ。遠ざかる足音と共に意識も落ちる。


 * * *

「おー・・・寝てれば美人なんだけどねぇ。」

嫌な視線を感じて、ぱっちりと目を開ければそこには見知った顔の男。

「・・・早かったじゃん。どうやってノッキングラウンドからここまで?」
「知り合いの相棒に乗って突っ走ってきた。」

丁度遊びに来てたからさ、ちょっとだけ走って貰ったって訳、と笑っているが。店先ではなにやら大事になっている様子。

「もしかして外じゃなくて近くまで連れて来ちゃった感じ?」
「郊外にいるけど、大きいから目立ってるかも。あ、マザースネークなんだ。」
「へぇ、また結構な・・・」

大きさだな。 見たことはないが知識としては知っている。マザースネークと言えばグルメ界に生息する凄い大きな蛇だったはず。

「とりあえず、トムさんだっけ? うちのがご迷惑かけましたー。」

へらっと笑って姫抱きしながら鉄平は店先に出ていく。トムはそのまま笑って手を振って送り出してくれたが、あいつ鉄平のことなにか誤解して見てたんじゃないだろうか。
お幸せにって、だからこいつ幼なじみだって。訂正してもどうせからかってばかりで相手にしてくれないだろうけど。

外にでたら、空になんか顔が浮いてた。普通に蛇の顔が、だ。

「おい、サニー!あまり近づけるな、一般人いるんだから!」
「るっせー!俺のクイン使っておきながら文句言われたくねーし!」

蛇の上にだれか乗っているのだろうか。あまりよく見えない。

「走るから、揺れるけど。ごめん。」

そう忠告してから、鉄平はだっこするように抱きかかえて走る。スネークのお陰で道は前より一層ひとだかりになっているので、走っているのは道ではなく、建物の上になるのだが。郊外に近くなってから、蛇の頭が近くまで降りてきた。そこに勢いを付けて鉄平は飛び乗った。

「よし、サニー出して。」
「ったく、レはタクシーじゃねーつの!」
「結構出血してるみたい。顔色悪いよ。」

とりあえず飲め、と渡されたのは雷鳴サイダー。俺のフルコースのドリンクメニューにあるものだ。もちろん適合食材になる。ごくりと飲み干せば、傷口が多少塞がった様な気がする。

「あ、なんか治ったかも。」
「バーカ。そんな簡単に治るか! ちゃんと処置しないと傷残るぞ、ソレ。」
「それは困るかな・・・歯形はちょっと・・・」
「なんか怪我してんの? うっわ、つくしくねぇ傷!」

蛇の頭に乗っていたのは酷くカラフルな毛玉・・・の男だろうか。酷くこちらを気味悪そうに見ている。そりゃあ自分だってこんな歯形と青あざだらけのを目前にしたら、そうなるかもしれないが。

「きっも、なにそれキッショい!!」
「で、今回なんでそんな事になってんの?俺も聞きたいんだけど。」
「話すと長くなるんだけど、ハント中に拾ったストーカーに、つきまとわれて囓られました。」

自分で言っててなんだか悲しくなってきた。これ俺悪くないよね、うん。大体の内容はそれで合っている。詳しくと言われたら話すけど。

「お前・・・それこそノッキングしろよ。」
「うん、危機感が無いってこの前ココにも言われた。」

だからさっきはノッキングして道ばたに転がしてきた、と言い訳する。しっかりノッキングしてきたから、1日くらいは大丈夫・・・だと思う。

「大体歯形からして大男、だな。 お前あらゆる意味で喰われそうだったんじゃね?」
「うん、流石にあのゼブラ相手だったから無理かと思ったよ。本当・・・油断したら駄目だね。」

その名前を口にした瞬間2人が顔を合わせて目を見開いた。


天災という名の、



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