君の隣 | ナノ


手負いは手強い


あー・・・頭がぐらぐらする。首筋をなめ回す男が時折、かじりつくように歯を立てる。ぶち、と聞こえるのは肉の裂ける音だろうか。思考回路がまとまらないのは何故だ。ぬくる背を伝うのは血だろうか男の唾液だろうか。歯を立てられる度に自分の中の生存本能が刺激されて、耳元で小さくぱちりぱちりと弾けては消える。

「っ・・・っあ、」

ばちり、ばちり、だんだん音は大きさを増して、男の耳がその異音を耳で捉える。

「あ"? なんの音だ、」

ぺたり、と瞬間触れたのは彼の顎付近。触れた先の男は目を見開いてこちらを見つめる。この時代、身の内にグルメ細胞を取り込んだ人間は四天王だけではない。ただ、自分の場合は四天王達のように使い方を詳しく学んだ訳ではないので、生存本能が刺激された時のみの一時的な能力になるのだが。それでもこういった場面では幾分か世話になっている。バチバチッと指から流れた電流は一瞬だったが、男にはかなりのダメージを与えられたようだ。気絶していると思われる男に念には念を入れてノッキングし、状態を確認してからハリーを呼ぶ。口笛を吹くときに当てた指にぬるりとした感触。ハントに行く予定で痛覚を少しだけ鈍くしたのが失敗だったか。けっこうな出血があったようで、頭がぐらぐらしたのはその所為だな、と納得する。

「・・・ハリー?」

とてとて、と幾分かゆっくりとこちらを警戒しながら現れた相棒も幾分かやられているようだったが、ゼブラが倒れているのを見て、ようやくこちらに警戒しながら近づいてくる。 血の匂いで大体把握したのであろう相棒は、鼻先で確かめるように撫でおろおろと目をさまよわせた。

「・・・病院か、食事か、でもお前も怪我してるから病院のが良いよね?」

キュウ、と鳴いたハリネズミの声は大丈夫だといっていたが、こちらとしては不安を抱えたままというのも困るので、念には念を入れて治療することに決めた。たしかワールドキッチンの近くに動物病院あっただろ、と思って駄目だなと一人でツッコミを入れる。ハリーはそういえば猛獣類だ。通常のグルメペットとは違うから動物病院では診て貰えない。そういうのは大概IGO関連か、再生屋の所まで連れて行くのが必須なのだが。ここからはライフにもIGOにも遠い。とりあえず処置方法だけ電話で再生屋に聞いて、処置しながら移動する形で良いだろう。冷蔵庫から自分の適応食材の冷凍品と、新品の服、カードを持ち出し、冷凍されたものを噛み砕きながら電話のボタンを押す。電話話先はまぁ幼なじみって言う奴で。美食屋を2人で目指していた男。途中でそいつは再生屋に、俺は料理人になってしまったのだが。 8回コールが鳴り、もう切ろうとしたときに電話先から間延びした声がする。

「はーい、こちら鉄平。なにかご用?」
「用があるから電話した。お前そんな接客態度だと師匠にドヤされるぞ。」
「余計なお世話だっつの。 で?」
「ポートハリネズミの針が折れた際の対処法って何?」

まさかグルメ界とか連れてってないよね、と心配そうに聞く男に苦笑する。

「まさか。連れていけるほどの実力が俺にもハリーにないのは分かってるよ。」
「まぁ一人でギリギリだしな。ってか、お前も怪我してたりする? 息荒いよ?」
「あー・・・肩から首にかけて囓られて流血沙汰。冷凍品じゃあまり回復しないみたい。」

その言葉に電話の向こうが息をのむのが分かった。

「どの位で着きそう?」
「んー・・・ライフになら3日。」
「あ、俺今ライフじゃなくて本拠地ノッキングラウンドなんだわ。」
「・・・そうか。」
「あー・・・ちょっと待て。今丁度良いの来たから、ちょっとそっちまで行くわ。」
「は、どれだけ掛かると・・・!」
「今どこ? 今から行くからじっとしてて。」
「・・・じゃあワールドキッチンで待ってる。」

軽く上半身の怪我付近を脱いだTシャツを千切って結び止血する。メールで、トムの所にいるから、とだけ打って送信する。そろそろワールドキッチン郊外だ。ハリーは目立つから郊外にとりあえず待機させておく。このあたりは土が軟らかいから地中に隠れるには楽な場所だからだ。下手に待機させて美食屋に狙われては堪らない。

人通りが多い中を掻き分けて進む。アイツは頸動脈でも狙っていたのだろうか・・・避けたつもりだったが少し範囲が掠っていた為出血が異様に多いらしい。目が霞む。どうにかトムの店先にたどり着いたが、どうやら今は取引中らしい。 終わるまで待っていようと思ったが、限界。壁に新しく零れた血の痕を引きずって、もたれるようにして崩れる。ようやく商談を終え、気が付いたトムはこちらをみるなり奇声を上げた。

「お前、それっ・・・どうしたんだ!!」
「ごめん、後で支払うからそれっぽい食材頂戴?」


再会なんてそんなもん


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