君の隣 | ナノ


危険予知


あまり寝られなかったな、なんて目を覚ましてみれば。机の上にサンドイッチと置き手紙。

「あいつ、勝手に帰ったな・・・」

挨拶位して帰ればいいのに・・・と呟きそうになって、あのまま顔を合わせても気まずいか、と一人苦笑した。流石に彼も恥ずかしかったのだろうか、それともこちらを考えてくれた故だろうか。残された手紙の穏やかな文面からしてきっと後者なのだろう。

「あー・・・っと、支度しようかな。」

ハントに行こう。なんか遠くに逃げたい気分。別に何からって訳じゃない。ただ、遠くへ行きたいだけ。人から離れたい、と思うと同時にだれかと常に共に有りたいと思う。
人よりその感情が強い自分はまず、恋とか愛とかいうより先に執着ばかりが先行する。
頭を冷やすのは彼でなくて、自分だ。 机の上のサンドイッチを口に詰め込み、着古したカッターシャツにジーンズを穿いて大体の荷物を袋に投げ込む。よし、と扉を開けたらゴン、と鈍い音。

「・・・?」

あ、なんかデジャビュ。ばたんと戸を閉じて、息を整える。再度扉をあければやはりゴン、と今度は力を入れてなかったので軽く音がした。目の前にはやはり昨日の男、ゼブラだ。今日は頼みの綱のココも居ないし、と腰に手をやれば愛用のノッキングガン。

「えっと、何の用? 今日はお店やってないんだけど。」

今からハントなんだ、と言えば男が苛々しながら口を開く。

「お前・・・調子のってんじゃねーよ。」
「・・・出会い頭に言われる筋合い無いんだけど。」

それにうちの店は基本的に不定期なんだって、と言えば顰められる顔。あれ、そうじゃないっぽい?じゃああれか、昨日ココにつまみ出されたの根に持ってる感じか。

「・・・昨日のは昨日でもう付けも貸しも支払ったと思うんだが。まだ何か?」
「今日のは、どうだぁ?」

ああ、さっきのゴンって音のこと?全然ダメージうけてないだろうから問題なくないか。

「普通あんな所に立ってると思わないだろ。不可抗力!」

こいつに絡まれるとろくな事がないと昨日学習したので、今日は突っ切ろうと決めた。二本唇に指を当てて吹けば、軽く澄んだ音が後ろの森まで木霊する。がざがさと揺れる木々の揺れが次第に早くなり、下からだいたい小山ほどのハリネズミが駆けてくる。

「ハリー!急いで!! ハントに行くよ。」

キュイ、と高く鳴いたハリネズミは速度を落とさぬまま鼻先を自分のバッグにひっかけると、背中のトゲを一部しまい込んだ場所に放り投げる。背中に着地した、と思った瞬間にハリーがぐらりと身を崩すので、そのまま遠心力で宙に投げ出される。落ちた先は厳つい腕の真ん中。露骨に嫌な顔をしてしまうのは、この際仕方ないだろう。何が悲しくて男が男に姫抱きなんかされなければいけないのだろうか。

「俺から逃げられると思うな、」
「ったく・・・ハリーになんてことしやがる。」

横を見れば、ギュイギュイと威嚇をして針を逆立てている相棒の姿。それに対してにたりと笑って、さらに攻撃をしかけようとする男。やるしかない、と思ってノッキングガンを男の神経に突き立てようとした瞬間に腕を取られ、男は初めからわかっていたんだとばかりにもぎ取ったガンを道に捨てた。それを見たハリーはさらに威嚇を強めたようだった。威嚇に気をよくしたのであろうゼブラは、そのまま口を開いて大きく息を吸い込み始める。それを見て本能的に危ない、と気付いた。そういえば、グルメ細胞をその身に宿した四天王は、それぞれ特化した才能を持っているとココから聴いたことがある。

ならば、ゼブラの能力は。

「やめろ!!俺に苛立ってるのは分かった。相手してやるからハリーに手出しするな!!」
「遅ぇ。」

ドン、と音のしたほうを見遣れば、森の奥まで大きくえぐれている。もちろんハリーのいた場所から、森の奥まで、といった所だ。さぁっと顔が青くなるのが分かる。離せ、降ろせ、この非道、散々罵った気がする。相手が何も言わない、とふと上を見上げれば、じとこちらを見つめる目と目が合う。

「腹が減った。」
「お前に喰わせるモンなんてねぇよ!!」
「・・・・・・・、そうか。」

べろり、と頬を撫でる長い舌に吐き気がした。と同時に占い師からの手紙の文章を思い起こす。ああ、やっちまったな・・・とおもったがもう遅い。


外は危ないって言ったでしょう?
 



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