その執事、性悪につき 『娼婦殺しの共通点は、後ろ首の付け根の小さな2つ穴と、子宮がない、ということ。』 葬儀屋、アンダーテイカーの言葉がシエルを悩ませていた。 「医学・解剖学に精通して、事件発覚前夜にアリバイが無く、秘密結社・黒魔術に関わるもの・・・」 (そんな奴、本当にいるのだろうか。) 「伯爵、着いたみたいだよ?」 「もう、グレルが道なんか間違えるからエライ遠回りしちゃったじゃない!!」 劉が扉を開くと、そこには先ほど別れた執事の姿が。 「お帰りなさいませ、お待ちしておりました。」 劉とマダムレッドが驚いている間に、執事は次の言葉を紡ぐ。 「条件を満たす人間は、1人まで絞り込めました。ドルイット子爵アレイスト・チェンバー様だけです。」 その言葉に裏が有るなど、この時は思いもしなかったのだ。あの後、舞踏会に潜り込み、ドルイット子爵とその他諸々を逮捕したが、「切り裂きジャック」事件は終わらなかった。 『切り裂きジャック再び現る! またしても娼婦が犠牲に』その記事を机に叩きつけてシエルは執事に向かい叱咤する。 「どういうことだ?!子爵は昨夜どこにも行っていなかった!」 捕まっていたんだからな、と苛つきまじりに叩き付けたシエルの言葉にマダムと劉は可能性を提示する。 「模倣犯・・・否、最初から複数犯の可能性もあるね。」 「子爵はハズレだったって事?」 唯一の容疑者が殺人不可能だとすると、事件は振り出しに戻ってしまったと言うことになる。 「もう一度、犯人を絞り直す。セバスチャン、リストを。」 シエルがそう言うとセバスチャンは一言「かしこまりました。」と答えた。しかし、少し条件を緩めるだけで数多くの容疑者が挙がってくる。 「埒があかないな・・・」 執事はお茶を入れながらただ笑うだけだ。 そこへ、マダムが息抜きにチェスを呈示してきた。普段なら断っている所ではあったのだが、マダムは自分の数少ない血縁者である。少しだけなら、と手駒を握って行ったチェスは勿論シエルの優勢。 「あんたの執事は本当に有能よね。あれだけ有能なら全て任せておけばいいのに。」 「あれは僕の駒だ。命令を出すのは主ぼくで、命令がない限り動かないように躾てある。」 その言葉にマダムは苦笑いした。自宅の執事とは大違い、なんて軽口を叩いて。外では雨が激しく降っていて、雷も時々瞬いていた。 もう遅いから、と1回きりの遊戯を終えてチェス板を持ってお休みとマダムがシエルの額にキスを落とす。それをくすぐったく感じながらマダムが去ったのと同時に有能な執事が部屋に入れ違いで入ってくる。 「・・・それで、どうなんだ?」 二人きりの部屋でベッドに寝ころびながらシエルはセバスチャンに問いかける。 「何度シュミレーションしても子爵以外にこの事件に関われる人間は居ませんね。」 「調査条件を変えるしかないのか?昨日の事件に子爵は関われない。」 「ええ、子爵邸にいた人間には不可能です。」 その答えに少しの引っかかりを感じた。この執事は全て解って自分を泳がせているのだと。 「セバスチャン・・・」 「私はあくまで「執事」ですから、出過ぎた意見など申しません。」 その言葉に疑問は確信へと変わる。 「その場に居た、“人間”には不可能なんだな?」 「ええ、そういう事です。」 「そう言うことか、貴様・・・!!」 『あなたの一言で私は「駒」にもなり「剣」にもなりましょう。さぁ、坊ちゃん。王手を。』 その執事 、性悪につき back |