ジュエルタイフーン とある日曜日。 坊ちゃんが慌てて起床をするなか、執事は調理室で何やら作り始めていた。 「何か、有るんですかねぇ・・・」 いつも通り玄関までなる紅い絨毯の汚れを箒で払い、花瓶の水を入れ替える。 「うわああああ!!やっちゃった・・・・!!!」 扉を閉めている玄関の中まで聞こえる大声。 フィ二だ。 嫌な予感に玄関を開けて中庭へと足を向けると、世にも無惨な薔薇の花達。 「・・・花っていうのは、もう少し下から切らないと花瓶には挿せないんだけれども。」 呟きながら近づくとフィニが、涙を目に浮かべながら身体に縋り着いてくる。 「どっ・・・どうしよう・・・!! またセバスチャンさんに怒られちゃう・・・!!」 ガタガタと身体を震わす様子から、普段どんな仕置きを受けているのか想像できる。まぁ、自分もあの執事は怖いから、人のことは言えないのだが。 「まぁ、工夫次第でしょう。 とりあえず怒られるのは確実だから、覚悟はしときなさい。」 花首だけの状態で地面に落ちている、色様々な薔薇を手持ちのハンカチーフで掬い上げる。 「・・・? 何してるんですか?」 「・・・後始末。」 にっこりと営業スマイルを浮かべると、フィニは顔をすこし引きつらせた。その様子にため息をついてから、とりあえずフィニの肩を叩いた。 「今から中庭の花の植え替えを買ってくるから、それまでに今生えてるのをどっか隠せ。」 この場に居合わせてしまった以上、仕置きの範囲はきっと私まで及ぶ。 「つっ・・・!! ありがとうございます、シルヴィオさん!!」 ぱぁあああっと効果音でも聞こえてきそうな、満面の笑みのフィニを急かして作業させる。 「もし、私が帰ってくるまでに執事君にバレても、私を巻き込むなよ。」 「はい!! シルヴィオさん!!」 いまいち不安なまま、買い出しに行ったものの。まだ開いていない植木屋の前で立ち往生。 「開店時間、あと30分後・・・って、絶対に間に合わないな。」 駄目元で、裏の店主の家の戸をノックする。 出てきたのは私が最も苦手とするタイプの中年で小太りの男。 「私、ファントムハイヴ家の者ですが。 朝早くに申し訳ない。」 「まだ、開店時間前だ。 後にしてくれ。」 男は扉を閉めようとしたが、瞬間に足を扉の隙間に潜り込ませる。 「こちらにも、事情がありまして。 今すぐに植え替えの薔薇を数本頂きたいのです。」 男は自分の上から下までを見て、値段をふっかけてきた。そう言って鼻を鳴らす店主から花を受け取り、金を払って屋敷に着くと。 「待っていましたよ、シルヴィオ。」 玄関でにっこり笑う、セバスチャン。だから何故こうもこの男は。フィニの方を眺め見ると、彼はおどおど怯えてから視線をそらせる。 「フィニ・・・っ・・・」 「さぁ、私に内緒で何をしていたのか、ご説明願えますか?」 顔を、唇が触れ合いそうな程まで近づけられて、背筋が凍る。ああ、もう、この男は身体に悪い。男が言葉を発するたびに顔にかかる吐息。 「うぇ・・・っ、 フィニに聞けっ・・・!!」 胸を押して逃げようとすると、身体を固定された。 「ふふ、仕方有りませんね。 客人が帰ってからじっくり貴方に聞くことにします。」 ぱっと、離された手で顔を拭いながら笑う男を睨む。どうせ相手にはされていないと解ってはいるけれども。 「さぁ、皆さん。 見てないで、さっさとお客様を迎える準備をなさい。」 パンパンと手を叩くとこちらを凝視していた使用人達が散らばっていく。セバスチャンも表情を戻すとてきぱきと作業に取りかかる。とりあえず、今日の私の仕事はフィニを絞めることから始まりそうです。 back |