鮮血のバラッド | ナノ


平和主義者なババロア


かしゃり、かしゃりとテンポよく生クリームをかき混ぜながら息をつく。シルヴィオさん、手を休めないでください、と横から小言が横から飛んでくるのは毎度のことである。まったく、この執事君の毒舌というか小言はどうにかならないのか。まぁ残りの奴らが表向きの仕事に不向きな分、こうなってしまうのも、 仕方のない事だと言えば仕方ないかもしれないが。 真面目に仕事をこなしている自分にまでそれが飛んでくるのは頂けない。

「これでも、真面目にやってま・・・うわっ、」

作業している私とセバスチャンの後ろで爆発音。発生源にまたか・・・と肩を落とすのは私だけのようだ。もう呆れを通り越して慣れてしまったのだろうセバスチャンがボールを机に置く。これは長いお叱りコースになりそうだ、と判断してセバスチャンの持っていたボールに、己の持っていた生クリームを注ぎ入れてふんわり軽く混ぜ込んでいく。
なんか私もそろそろ慣れた・・・気がする。

「これで型に流し込んで、と・・・」

とんとん、と型を机に落として空気を軽く抜けば、大体形になっている様に思う。落ち着いた所で後ろのほうを向けば、予想通りといったところだろうか。どうやら先程セバスチャンが仕込んでいた鴨を、ローストと称して爆発させてしまったのだろう。フォローのしようがない。だって普通ローストにそんな武器みたいなの使わないし。根本的な考え方が違うんだよなぁ、というか何度もやってて学習はしないのだろうか。

「セバスチャンさん、次はどうしたら?」
「仕方ないですね、バルドさんはそれ片づけたら暖炉の火を見に行ってください。」

まだ叱り足りないといわんばかりのセバスチャンを宥めて、調理を再開する。まぁ時間が足りなくてもこの執事は上手くこなしてしまうのだろうけれども。というか今更なのだが、なんで執事が食事つくってるんだ。わからん。

「シルヴィオさんくらい手が掛からなければ、私も楽なんですが・・・。」
「まぁ無理でしょうね。 というか人選したの、貴方だって私聞きましたけど?」

スカウトしたのはほとんど坊ちゃんではなく、執事のセバスチャンだったという話だ。やはり基準が戦闘能力重視だったのだが、これほどまでに癖のある奴らをどうやって捕まえてきたのか。

「ええ、坊ちゃんにはピッタリでしょう?」

まぁ、そういう時以外には役に立ちませんけど。

「人間にしては、面白い人たちばっかりですね。」
「ええ、全く。」

退屈はしませんよ、それはお互いでしょう? この悪魔もこうして作業しているときだけは、他の奴らより人間じみていると思う。手さばきの速さだとか、そういう事に関してはまぁ人外なのだが。人間らしくない人間達と、人間じみた人外が構成する屋敷に馴染んでしまってからは、あまり自分が人外だと気付かされる機会が減った。まさか人間にもこんなのが居るとは思わないし、考えてみれば私のがよっぽど人間らしい気がしてくるのだ。

「ローストチキンどうしましょうか?」
「再生させられれば楽なんですが。坊ちゃんから人間らしくしろとのお達しですので。」
「ですよねー。」

人間らしく、という言葉で制限を受けると途端に面倒な作業が増える。便利な力を持っているのにそれをセーブして使う、という感覚にももう幾分か慣れている物の、自分一人で愉快にやっていた時とは勝手が違うのでやりにくさを感じることは思ったより多かった。

「人間とは不便ですよね、こんな物でも食べないと生きていけないのですから。」
「でも貴方も私も、食べるもの違いますけど食事はするでしょう?」

食べるものは違っても、拘りやそれにかける努力は種族が違ってもきっと一緒じゃないですか? そう呟けば、セバスチャンは笑みを零して頷いた。

(あ、デザート冷やし忘れた・・・・固まってない!)
(シルヴィオ、そのくらいは固めてもバレませんので固めてしまいなさい )


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