鮮血のバラッド | ナノ


その医者、目撃者につき


夜、慣れない仕事を必死に執事3人でこなしていく。

「なんで、私が・・・」
「だっ、大丈夫ですよ、すぐ慣れます!」
「すみませんが、グレルさんだけには言われたくないです。」
「えっ・・・えっ??」
「シルヴィオさん、グレルさん、手を動かしてくださいね」

(ただでさえ、シルヴィオさんとグレルさんは仕事遅いんですから)と付け加えるのを忘れない。

「・・・執事くん、貴方はどこに行くんですか」

仕事を二人に任せて歩き出した背中に問いかける声がしたが己には答える義務などはない。くすりと口元に笑みを浮かべながらシルヴィオの唇に押し当てた。

「・・・坊ちゃんのところ、ですよ。」




 *  *  *


しんと静まった主の部屋のドアをノックし、月明かりの中思いつめたようにこちらを待っていた主に向かって口を開く。

「坊ちゃん、言いにくいのですが「分かっている」」

私の言葉を遮り、シエルが凄む。

「片方がハズレなら、もう片方を当たるまでだ。」
「でも、貴方は覚悟出来ているのですか?」
「血縁だろうが、知り合いだろうが、関係ない。」

だれであろうと、相手がクロならば狩るだけだ。 静かに前を向いたシエルの瞳は揺れては居なかった。それでこそ私の坊ちゃん。私の最高の贄。

「そうですか、差し出がましいことを申しました」

セバスチャンはニコリと笑うとシエルをベッドに誘導する。もう夜も遅い。人間の子供の身体に夜更かしは酷だろう。それに明日はきっと夜中、今日のように寝れるとは限らないのだから。

「今日は相手方も動く気配はありませんし、今までの様子から決行は明日です」
「ああ、そうだな。準備しておけよ。」
「解りました。坊ちゃん、いい夢を」



その医者、目撃者につき



「・・・で、シルヴィオさん。貴方は盗み聞きですか。」

パタンと閉めた扉の向こうには壁に張り付くようにしていた男。

「いや、ちょっと、ね。」
「執事たる物、そんなことではいけませんよ。」
「私は医者っ・・・今は違うのか。」

少し自嘲するように言うとセバスチャンが笑う。

「自分の立場がようやく解ってきたようですね。」
「嫌になるけれどね。」

その答えにセバスチャンは満足したかのように笑う。

「それで?相手に目星はついてるんだろう?」
「ええ、そうですね。」
「私は犯人を見ているよ。」

その瞬間セバスチャンの目が細められた。

「なぜ、初めの時に言わなかったんですか?」
「あの現場にいた、って言ったら疑われるのは私だろう?」

自ら愚かに、話したりしないよ。セバスチャンは予想外の事に少し歯噛していた。

「聞かれなかったのもあるが、例え私が真実を話していても信じないだろう?」
「・・・そう、ですね。」

「さァ、答え合わせをしようじゃないか、執事君」
「いえ、結構です。もう彼らしか、該当者はいませんから。」


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