寡黙な詐欺師 | ナノ


ちょっと回り道


スモーカーさんの部屋のソファーでゆっくりくつろいでいると、荒々しくドアが開いた。

「・・・機嫌が悪いですね。」

どうかしたんですか?と聞く前に、スモーカーさんの口から「逃げられた」と言う声がした。この空気を和らげようと、船が出る汽笛を合図に私はタオルを投げた。

「そうですか。・・・風邪、引きますよ。」


今から思えば、あいつが捕まったらあの人は心底残念に思うに違いない。そう思えば良かったと思うし、でもスモーカーさんには申し訳なく思ってしまう。そんな複雑な気持ちを抱えながら、スモーカーさんを見ると、いきなり彼から話しかけられた。

「そういやぁシルフィン、この船から降りなくて良いのか?」
「え、本部に行く船ですよね?大丈夫ですよ、ちゃんと許可とってあるんで堂々と乗れま「違げぇ。」・・・はい?」

何が違うんですか?と聞こうと思った矢先に、スモーカーさんから思っても見なかった言葉が飛び出した。

「この船は、麦わらのルフィを追う船に変更した。」

一瞬聞き間違いかと思ったが、もう一度丁寧に目の前の人は同じ言葉を言ってくれた。

「いつ変更したんですか!?」
「さっきだ。」

そうさらりと言われ、私は怒るに怒れなくなってしまう。(この人はこういう人だから。)

「でも、最後には本部に行くんですよね?」
「まぁそうだな。」

じゃぁ、私はここにいます。そう言って、いつの間にか立ち上がっていた自分の身体をもう一度ソファーに沈めた。

「・・・シルフィン、それで大丈夫なのか?」
「まぁ、今はもう逃亡している方の裏をとる調査なので、別にそこまで急ぎじゃありませんし。」

たまには、クザンさんも困れば良いんですよ。そう言って私はスモーカーさんににやりと笑った。

「その間まで、この船で一海兵として働かせて頂くんで、お願いしますね。」
「おれが犯罪者の部下をおけってか?冗談じゃねぇ。」

七武海も信用ならねぇが、お前も信用ならねぇ。と言われ、「そりゃそうでしょうよ。」と内心傷つきながら呟く。

「スモーカー“大佐”は、海軍ですもんね。逆に私を簡単に信用するスモーカー“大佐”はスモーカー“大佐”じゃないです。」

嫌みのように“大佐”を連呼してみれば、鬼の形相でこちらを見てくる。(あ、地雷を踏んだかも。)

「大佐って呼ぶんじゃねぇよシルフィン。」
「すいません、でも「何だ。」これだけは言っておきたいので。」

そう言って、私は立ち上がって出口の方へと歩いていく。

「海賊が嫌いです。」
「まぁ、副職がそんな感じだしな。」
「海軍も嫌いです。」
「・・・・・・・。」

「スモーカー“大佐”も嫌いですけど、好きです。貴方の正義は嫌いじゃない。」
「・・・意味がわかんねぇ。」

気にしないでください。そう言って、色んな事を笑って誤魔化して外へ出ようと思ったら、ドアノブが動かなかった。

「何ですか。」
「何しに行くんだ。「海兵服を盗りに?」・・・やっぱりか。」

ドアノブを押さえられていて、少し戸惑いながらもそう答えると、いきなり右耳から溜息と共になま暖かい息を感じた。

「なっ、ちょっとスモー「待ってろ。」はい?」

変な物を盗まれると困るしな。と言われ、彼はドアの向こうに消えていった。

「そう言うところが、好きだなぁ。うん。」

なんだかんだ言って、あの人は優しいのだ。(ちょっとさっきは距離が近かったけど。)そうして振り返ると。ふと、机に置いてある紙の束を視界の隅に捉える。

「どう考えたって書類だよね・・・あれ。」

ちょっとは信用されているのだろうか。そう思って私は小さく笑った。


 * * *


起きろ、と言う低い声と体中に走る鈍い痛みで私の意識は覚醒する。

「シルフィン起きろ。」
「!!・・・・寝てた?「あぁ、軽く1時間程度はな。」じゃぁ、もう少し寝れますね・・・あたぁっ!!」

何するんですか。と今にも落ちそうな目を擦りながら、呟いた。(ソファーから落とされ、頭は小突かれ・・・何ですか、もう。)

「ほらよ。」
「あ、海軍服・・・・・・『雑用』?」
「テメェはそれで充分だ。」
「あ、ありがとうございます!」

そう言って、服を身体に当ててみる。(ちょっと大きいみたいだ。)
「あーなんだ。サイズは良く分からなかったからな。適当にひっつかんできた。」
「・・・スモーカーさんらしい・・・。」

あ、大佐か。と言えば、「人が居なければ別にそのままでも言い。」との返事が返ってきたので。 笑いながら、「貴方みたいな人が海軍の上の方だと、本当に良い世界になると思うんですけどねぇ。」と呟いた。

「まぁ、良いんですけど。・・・さてと、じゃぁ、スモーカー大佐!明日から宜しくお願いしますであります!!」
「・・・何か複雑だがな。」

そう言えば、シルフィン。と言われ振り向くと、目の前には一枚の紙が。

「何ですか、これ。」
「テメェの部屋だ。」

丸が付いているところを見ると、そこは倉庫と書いてある。

「・・・え、倉庫、ですか。」
「何だシルフィン。文句があんのか?」
「いえ、無いです。」

まぁ、これも仕方がない・・・と思いたい。


不完全なる秘密主義者 


これ、着たこと無かったんですよ。と言うと、「良かったじゃねぇか。」とスモーカーさんにいわれる。 しかし、着たいのかといわれればそれはNOである。私はスモーカーさんに反論をしてみた。

「確かに初めてですけど、普通の海軍服かインペルダウンの方が良かったです・・・まぁ、文句は言いませんけど。」
「インペルダウン・・・?」
「あーいえ、何でもないです。」

さーて、明日から頑張りますよーと言いながら、私はスモーカーさんの部屋を抜け出した。 取りあえず、怒られるような発言は止めよう。 そう思いながら、私は自分の部屋兼倉庫へと足を進めていった。


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