寡黙な詐欺師 | ナノ


寛大な選択肢


月が濁った黄色に見える夜、ぼーっとしていたおれは、廊下から響いてくる靴音を聞いた。

「・・・誰だ?」

ただでさえ夜は物騒なこの街だ。だからこそこんな真夜中に響く足音が奇妙に聞こえる。
この小さな呟きが聞こえたのかわからないが、通り過ぎて行った靴音が引き返してきて、そして俺の部屋の前で止まる。
味方・・・じゃねぇことは確かだな。と思いながら、相手の出方を待つ。
そうして扉をじっと見ていれば、ギィッと重たく開く扉。

「こんばんは、ドフラミンゴさん。良いハロウィーン日和になりまして。」

そう言っておれの目の前まで歩いてくるのは、ぶかぶかの木靴を履いたジャック。
右手にはランタン、左手にはそいつの頭と同じような形の籠を持っている。

「・・・!・・・フフフフ・・・そうか。そういやぁ、今日はハロウィーンだったな。」

そう言ってやれば、目の前のかぼちゃ頭は満足そうに頷いて見せた。
その動きを見ていて、日中に盛大なハロウィーンパーティをやったのを、今更になって思い出す。

「と言うことで、お話は分かっていると思いますが。」
「おう。」
「トリックオアトリート。」

ランタンを左手に持って、ずいと差し出された右手。
その先は真っ黒な服で隠れていて、奥が見えず、おれはこの妙な客をどうしようかと考えるしかなくなってしまう。
そうやっておれが何も行動を起こさなかったことが不服なのか、さらに眼前に伸びてくる手。
月の光とランタンの光に当てられ、不気味な色合いで迫ってくるそれを見ながら、おれはようやく、口を開いた。

「・・・わりぃな。」
「無いんですか。」
「ああ、昼間のパーティで全部使っちまったからな。」

これは本当だ。こんな真夜中に来訪者が来るだなんて思ってもみなかったから、何も用意していない。

「来る時間を間違えたな。」
「いいえ、この時間帯が正式ですから。」

そう言って、男とも女ともわからないそいつは、また重たそうな木靴を引きずって、扉の方へと歩いていく。
拍子抜けだ。
無謀な海賊か、賞金稼ぎが・・・あるいはおれに恨みを持つ奴だろうと思っていたから、この反応は本当におれを戸惑わせた。

「おい、悪戯はいいのかよ?」
「・・・・・・明日。」
「あ?」
「明日には分かると思いますよ。」

それでは。と最後に残して、来た時と同じようにギィっと音を立ててゆっくり閉めていった。
ただ、来る時と違ったのは。

「・・・足音がしねぇ・・・?」

独特の足音が聞こえないので、隠れているのかと思って扉を開けて周りを見ても、人一人いない。
あいつが来る数時間前の静けさに急に戻ったので、気味が悪い、もやもやとした感覚が夜中抜けなかった。


寛大な選択肢 


次の日、仕事机に向かってみれば、昨日まで積み重なっていた書類が妙に減っている。
不思議に思っていると、慌てて入ってきたおれの部下が持ってきたのは一枚の紙。・・・・・・嫌な予感しかしない。
そして極めつけはニュースクーの新聞と来たもんだ。
それらを握りしめ、おれは大きく息を吸う。そして『ジャック』の名前を叫んだ。

「赤時計ぇぇぇぇえ!!」


(お菓子くれないのがいけないと思うんですよねー。)
(シルフィンちゃんって意外に酷い子だよね。)
(えーでも、選択肢あげたじゃないですか。というか、私聖人君主じゃないのでそんなこと言われても知りませんもん。)
(まぁ、おれじゃないからいいけどね。)
(クザンさんだって結構酷いと思いますよ、それ。)
(え、そう?)

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