寡黙な詐欺師 | ナノ


幸せを呼び込む方角


「・・・・・・シルフィン。」
「・・・・・・?」

首を傾げてはいるけれど、依然としておれに背中を向けているシルフィン。シルフィンが何も返事をしないなんて珍しい。と思って見てみれば。

「・・・何食べてんの。」
「・・・え、恵方巻きですけど?今年は南南東なんですよー。」

食べ終わったシルフィンがそう説明してくれる。シルフィンの話によれば、話さないで食べきれば福が来るとかっていう、行事の1つらしい。ただ、無言で食べているのが少しシュールに見えただけで。

「へぇ・・・。」
「あ、クザンさんもやってみますか?」

近くにクレープ屋さんありましたよね?と聞かれて、おれは肯定する。

「・・・でもさ、巻きずしをクレープで代用して大丈夫なのか?」
「所変われば品変わるって言うじゃないですか!!」

クザンさん、行きましょう!!あそこの林檎入りクレープは絶品なんです。と言われ、おれは苦笑してしまう。

「それってアンタが食べたいだけでしょうが。」
「うっ・・・。」
「ほら、やっぱり。」

まぁ、良いんだけどね。と続けて言いながら、おれはシルフィンに手を差し出した。

「・・・?」
「何ぼけっとしちゃってんの。行くんだろ?クレープ屋。」

そう言った後おれの手を軽く握って(一回手が砕けそうになったけど)、おれ達は歩き始めた。まぁ、こういうデートも悪くない。そう思いながら、海軍本部の階段を一緒に降りていった。

(そう言えば・・・。さっきからクザンさんを呼ぶ声が聞こえるんですけど。)
(あー・・・おれには、聞こえないかな。うん。)



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