寡黙な詐欺師 | ナノ


溜息ベールの魔法


「・・・スモーカーさーん。」
「何だシルフィン。」

ソファーで寝ていたシルフィンが、寝ぼけながらそう言う。それを聞いたおれは書類にペンを走らせながら、適当に相づちを打つ。

「それ、貸してくれませんかー?」

『それ』と指を指した方向を見ると、在るのはおれの上着。

「何に使うんだ。」

まぁ、使う用途は何となくわかっちゃぁいるんだが。

「ふとんですー。」
「・・・おれの上着はお前の布団じゃねぇ。」

そう言いながら、おれの体はそれを掴んでシルフィンの方に放り投げていた。出来上がった書類の山が一回りほどでかくなった頃だろうか、もぞもぞと動く音がした。それを捉えた視界のはしには、こっそりと毛布がきちんとたたまれて置いてある。

「おれのじゃなくて、毛布使えばいいだろうが・・・。」

そう呟いて、毛布をシルフィンの上に被せると、上着から黒い髪がもそもそ出てくる。

「・・・スモーカーさん、つかいます?」
「いや、まだ仕事が残ってる。」

そうですかと呟いたので、また戻っていくのかと思ったら、視線がしっかりしていない顔をこちらに向ける。

「・・・・・・なんだ。」

そう聞いたのがおれの今日の間違いだった。


溜息ベールの魔法 


「っ・・・あー。」

たまにもぞもぞ動く布の山を見ながら、おれは深く溜息を付く。

『スモーカーさんの煙草の匂いがするんです。安心して寝れるんで。』と・・・あの馬鹿が言いやがった。ふざけるな、とも何とも言えずに、ただ椅子に座って溜息をつくしか出来なかった。取りあえず早く誰か書類を取りに来い。顔を片手で覆いながら、そう願った。


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