寡黙な詐欺師 | ナノ


無限ループ


一仕事終えて、自分の職務室に行くと、ソファーの辺りで誰かがいる気配がした。

「・・・シルフィン、またか。」
「んー?」

そう言う声がすると、眠たそうにゆっくりと体を起こしながら、こちらを見てくる。俺の指定席に寝ていたのはシルフィンで、おれは眉間に皺が寄るのを感じながら、シルフィンを起こすかのように、大きく靴の音を鳴らす。

「・・・何でお前は此処にいるんだ。」 
「えー・・・だって此処、居心地、すっごく良いん、です、よ・・・あたぁ!!」

おれの問いに答えながらも既に瞼が降りてきているシルフィンに拳骨を一発喰らわせて、こいつの正面のソファーに座る。恨めしそうに シルフィンはこちらを頭を押さえながら睨んだが俺は気にしない。

「すもーかーさん・・・痛い。」
「痛くなかったら、もう一発殴って起こしてやるところだった。」
「暴力に走りすぎると女性に嫌われますよ・・・いえ、すいませんでした。」

そうおれに対して謝っておきながら、『あんまり眉間に皺を寄せてると、格好いい顔が台無しですよー。』とかほざきやがる。

「おれが眉間に皺を寄せている理由がわからねぇのか?」
「スモーカー准将!全く解らないでありますっ!!」
「・・・それはおれが海軍でお前が怪盗赤時計だからだ。」

海軍風に答えるシルフィンに頭が痛くなりながら、言葉を出した。

「?・・・スモーカーさん、それが何かいけないんですか?」
「だーかーらーなー。」
「私、此処落ち着くんです。」

にこやかに笑うシルフィンを見ながら、「たばこ臭くねぇのかよ」と小さく呟いたのが聞こえていたようで。

「あ、私耳と目は良いですけど、鼻はあまり利かないんですよ。多分体質なんですね。」

そう答えながら、おれの方をずっとニコニコしながら見ている。

「だから、気にならないんです。」
「そうか。」

私、あんまり寝れない体質なんですけど、此処ではゆっくり寝れるんです。そう誰に言うでもなく呟いたシルフィンに、おれはため息をついて口を開いた。

「・・・もういい、解った。好きにしろ。」

そう言うとシルフィンは喜んで、ソファーの上にまた寝転がった。このやり取り、実はもう一週間ぐらい続いていたりする。


無限ループ


シルフィンが寝ちまった後、おれはゆっくりと近づいて、"赤時計"を冠する首元の赤い時計を触る。

「せめて、時計を隠してこいよな・・・。」

怪盗だと周りにばれてしまわぬように。


「あ、じゃぁ。今度からは服の中に入れてきます。」     
「!!!」

(・・・てめぇ、いつから起きてたんだ。)
(だから言ったじゃないですか、『私、あんまり眠れない体質なんです。』って。)

まだこのループから、抜け出せないらしい。


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