寡黙な詐欺師 | ナノ


嘘吐きのための日


「マルコさん、マルコさん!こんばんわー。」

甲板の隅で一服していると、海からそう声がした。
そう言って下を見てみるも、何もない海しか見えず。

「その声は・・・シルフィンかい?」
「違いますよー。」
「私はシルフィンじゃなくて、赤時計ですよー。」


おれの行動が見えているのか、クスクス笑いながらそう言われる。シルフィンも赤時計も、どっちも一緒だろい。と突っ込みたくなったのはおれだけだろうか。

「そう言えば・・・今だいたい12時だろ。」

甲板を照らしている太陽を感じながら、そう呟いた。『こんばんわ』なんて言葉は今の時間帯にあわない。

「違います、今は11時54分です!まだ午前中です。」

12時はまだ遠いんですから!!と、時間に若干細かいシルフィンが後ろから反論してくる。 振り向くとシルフィンがいて、何故かニヤニヤと笑っている。

「・・・どうしたんだい。」
「今日、えーぷりーるふーるってやつらしいじゃないですか。私もそれに便乗しようかと。」

確かさっきもそんな話を船員と話をしていたことを思い出して、苦笑いをする。

「生憎、おれはそんな嘘とか、簡単に引っかからねぇ男だからねぃ・・・。」

悪いなシルフィン、別のやつにやってやれ。と言ってやると、不機嫌になるどころか笑みをどんどん深くしていく。

「だから、じゃないですか。」

引っかかるまでは行かなくても、動揺ぐらいはさせたいじゃないですか!!と楽しそうにそう言う。 そんな彼女の顔を見て、おれは船の手摺りに体を預ける。

「・・・で、どう引っかけてくれるんだい?」
「うーん・・・まだ、ですかね。」

今から、引っかけますよ!!って言ったら丸分かりじゃないですか。と言ったので、おれは確かにと呟いて笑った。そうして笑っていると、いきなりシルフィンに名前を呼ばれる。

「なんだいシルフィン。」
「あのですねぇ、マルコさん。」

ふわふわと笑いながら、シルフィンはこのすぐ後に、衝撃的な言葉を口にした。 大好きです、と。


曖昧Poisson d'avril


「ちょっ・・・シルフィン!!」

そう言ってシルフィンが居たところを見るも、もうそこには誰もおらず。滑り込むように船内に入って時計を確認すると、12時1分に差し掛かろうとしていた。

「・・・あー・・・くそ。」

嘘を吐いて良いのは午前中のみだと聞いたことがある、それを知ってあの行動をしたのだろう。あの時間は午前だったのか午後だったのか、午前だったらあれが嘘だったのか嘘じゃなかったのか。曖昧に曖昧を重ね合わせた言葉に、今、どうも落ち着かない。

「やられた・・・。」

あいつの行動の何処までが本当で、何処までが嘘だったのか、本人しか分からないことだが。 ただ一つだけ分かることは、言葉遊びが得意なあいつは今、とても上機嫌なのだろう。


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