寡黙な詐欺師 | ナノ


届きそうで届かない


今ならあいつの言っていたことが解った。あいつはこの事を知っていたのだ。怒りなのかさえ解らずに、おれはギリリと奥歯を噛んだ。

「シルフィン・・・いや、今は赤時計か・・・おれはお前を捕まえる。」

この言葉は、おれ自身に言い聞かせた言葉だったのかも知れない。

「知ってますよ。私は怪盗、貴方は海軍。そして貴方は、こんな私を許さないでしょう?」
「知っているなら、何故!」

何故、おれの前にその顔を晒したんだ。そう言おうとしていた口は開いたままで、何の音も発しなかった。挙げ句の果てに、ゆっくりと近づいてくるシルフィンに何故か後ずさりをしてしまう。

「ドレークさん・・・私は知りたいんです。」
「何をだ。」
「・・・家族が、みんな死んだんです。ある事件に関わったせいで。」

少し考えた後、彼女はまた話し始める。

「私はその事件の延長線上にある“何か”が知りたいだけです。・・・例え、それが世界の根底をひっくり返すようなことだったとしても。」

気づくとシルフィンはおれの手を伸ばせば届くところに居て、尚かつ片腕はおれの頬に触れるか触れないかの所で止まっている。     

「捕まえないんですか?・・・こんなに近いんですよ。」
「うるさい。」

変わらないなぁ、本当に。とシルフィンは言い、以前の様に嬉しそうに笑ったが。
「でも、駄目です。・・・・・・『全海兵に告ぐ!赤時計が北東の市街へ逃走中、直ちに北東へ向かってくれ!!』」
「っ・・・シルフィン!」

喉の辺りを触った後(多分変声器なのだろう)、彼女がいきなりおれの声で電電虫にそう叫んだ。 部下の足音がだんだん近づいてくるのが解る。

「シルフィン、お前は何がしたいんだ!?」
「ドレークさんは海軍なんだから、私を捕まえないといけないんですよ。それを手伝っただけです。」

そう言って笑うと、彼女は建物の屋根へと飛び乗った。

「何故おれに近づいた・・・何のためだ。」

そう言うと彼女は一瞬驚いた顔をしたが、すぐ食えないような笑みを作って、おれに演劇のように高らかにこう言った。

「『嗚呼ドレークさん、どうして貴方は海軍将校なんですか?貴方が地位のない一般人だったなら。私は貴方の元へ気にせず行けたでしょうに!』」
「・・・それは無理な相談だ。「知ってます。」

誰かが「居たぞ、赤時計だ!」と叫ぶ声はどこか遠くて。シルフィンの声だけが遠いはずなのに近く聞こえる。

「何のためでもない。・・・私はそんなドレークさんだから、会いに行ってたんです。」

でも、もう終わり。 そうシルフィンの口が形作った後、彼女は屋根伝いに走っていく。

「シルフィン!!」

そう呼び止めると、シルフィンはくるりと振り返って、こう言った。

「名前、本当にシルフィンって言うんです。・・・その事実をどうするかはドレークさんに任せます。」
「・・・・・・。」
「卑怯ですけど、私、出来れば貴方にこの事を知られたくなかったです。」

海軍も、海賊も嫌いです。でも、ドレークさんって言う人は好きでした。そう言った後シルフィンは一回笑って、走り始めた。

「ドレーク少将!ご無事でありますか!?」

おれを心配する海兵や、彼女を追っていく海兵。

「・・・・・・・・・少し、休ませてくれ。」 

何故か気分が悪くなってきて、そう海兵の一人に言うと、おれは本部へと足を向けた。


何もかも、 


嘘であって欲しい。そう願いたかった。しかし、むしゃくしゃした気持ちを吐き出す様に壁を叩いた手が、残酷にも答えを出していた。


  back


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -