オレンジレアチーズケーキの憂鬱 さくり、さくりと食べるたびに、口一杯に広がる甘酸っぱい酸味。ちょっとほろほろと落ちるのが玉にきずだけど。 「美味しいですねー。」 「シルフィンの口にあったのなら、それで良い。」 そう言って小さく笑うドレークさんに、私もつられて笑い返す。 「でも・・・何かすみませんね、いきなり来たのにケーキまで出して貰うなんて。」 「いや、丁度ケーキはあったからな。気にしないで良い。」 そう言われてしまい、私は曖昧に返事を返すしかなかった。 ・・・さっき厨房でコックさんが急いで何かを作っていた気がしたのだけれど・・・。 すいません、コックさん。後でお礼を言いに行きます。 「でも・・・ドレークさんが海賊になった、って聞いて驚きましたよ。」 そう言いながらケーキを食べ続けるシルフィンを見ながら、おれはつい先程シルフィンと会った時のことを思い出していた。 「ああ、あの時のシルフィンの狼狽え様はなかなか面白かった。」 「!!・・・・・・・あのドレークさん、海賊になって少しいじめっ子さんになりましたか?」 「いや、これは多分元々だ。」 「海軍に居た頃は、そんな感じじゃなかった気がするんですけど・・・。」 そんなシルフィンの呟きを軽く聞かなかったことにして、自分の分のケーキを頬張る。 コックには悪いことをしたと思うが、先程飲んだ珈琲の所為であまりケーキの味が分からない。その事実に苦笑いをしながら、おれは食べかけのケーキを皿の上に置く。その動作を見ていたシルフィンが小さく首を傾げているのが見えて、ふと、自分が海軍にいた頃のことを思い出した。昔もたまに休憩時に現れたシルフィンと、こうしてゆっくりしていたものだ。 「・・・シルフィン。」 「はい。何ですか?」 「おれは、シルフィンがシルフィンであればそれでいい。」 「?はい。」 自分には今、大きな目標がある。だから、これ以上は望まないさ。たまにこうして茶でも飲んでゆっくり出来ればいい。今は、だが。本当は帰したくない自分にそう言い聞かせて、ケーキを食べることに専念することにした。 「・・・でも、確かにそうだと思いますよ。」 「?」 「私も、ドレークさんがドレークさんであればそれで良いですし。」 「・・・・・・。」 甘さの中に、少しの酸味。そして、ぼろぼろと何かが崩れていく感覚がした。 オレンジレアチーズケーキの憂鬱 ・・・困った。 「シルフィン・・・そんなことを言ったら、帰したくなくなるだろう?」 「え、ドレークさん?」 食べ終わったのかこちらに近づいてきたシルフィンを自分の中に閉じこめて、心の中で溜息をつく。 嗚呼・・・本当に、困った。 title by 21グラムの世界 back |