花言葉を込めて | ナノ


不安を取り除いて


「・・・うーん。」

ちょっとひやっとしたときもあったけれど、なんとか無事に辿りついた。 料金は頂いたから、もう帰っても良いんだけれど。せっかく来たのだから見て回りたい。

「でもなー・・・持ち合わせが・・・。」

手伝いだけどと思って、財布などの貴重品は家に置いたままだ。(携帯は一応持ってはいるが。) 仕方がない。今日は家でゴロゴロ過ごすか。と思い、外へ出ようとした瞬間。呼び止められる。 後ろを振り向いてみると、さっき花を受け取った従業員の方。この時この人が言った提案を断ればよかった。なんて、後悔するのは後のこと。

「えっと、その絵でしたら・・・。」

目の前のおばあさんに聞かれた展示品の場所を、説明する。 どうしてこうなっているのかというと、従業員の方の言葉で、現在館内を回らせてもらっている。『警備員のバイトの方が、渋滞に巻き込まれて・・・これは皆さんには内緒ですけど。』と、小声で言われ。

「2階のすぐ突き当たりにありますよ。」

警備員(仮)やらせてもらってます。(きっとあの人はここの偉い人なのだろう。)でも、こういう制服は着てみたかったので、ちょっと楽しかったりする。そうそう変なことする人も居ないし、巡回という名目で色んな絵をチラチラ見れるのは有り難い。・・・まぁ、給料は流石に貰えないけれども。そうして美術館を何周か回った時だった。

「うわっ!!」

いきなり周りが暗くなり、私の声が美術館に響く。一人だけ声を上げたのが恥ずかしくて、周りをくるりと見回してみる。

「・・・なんだ。誰もいなかったんだ。」

そう呟いて、内心少しホッとするのと同時に不安が芽生えてくる。

「何か不気味だ。」

今私は警備員(仮)なので、とある博物館の物が動き出す映画みたいだなんて、素直に喜べないのが現状である。正直こいつらには動いて欲しくない。そう思いながら、目の前の青いドロドロした像に目をやる。

「・・・取りあえず、お客さんの安全を確かめに行かないと。」

急に暗くなって、きっと不安に思っている人も居るだろう。そう思って、私は1階へと足を進めた。2階よりも、1階の方が暗い気がする。懐中電灯が腰についているが、つけるのはやめた。

「もー・・・やだなぁ・・・。」

一回関係者以外立入禁止の所に入って、どうしようか尋ねようとしに言ったが、誰もいなかった。 取りあえず自分の荷物だけ取ってきて、一階を捜索し始める。

「誰か居ませんかー・・・?」

ホラーが苦手な私は、警備員(仮)なんて頼まれてなかったら、さっさと逃げているだろう。

「居ませんねー・・・。」

本当に帰りたい。タダより高い物はないと、こんな時に分かりたくなかった。

「あー何で誰も居ないのさ・・・・・・ん?」

ふと斜め下を見ると、大きな青い絵があった。確か題名は『深海の世』・・・そして気になるのが。

「・・・縄が切れてる。」

この絵からどこかに繋がって居るかのように、そこだけ縄が切れている。

「まさか・・・ね。」

気のせい、ファンタジーの見過ぎだ。そう思って他の所を回ろうとした瞬間、体に走った鈍い衝撃とドンという音。

「!?」

重力に逆らえず、傾いていく自分の体。そして。ぽちゃん。 耳元で水音が聞こえた。


落としたクリスマスローズの行方 
 

「ふーむみみみみ。」
地面に寝転がっていた体を、変なかけ声と共に起こす。見ると、内装は美術館と同じ作りだ。・・・でも、と私はもう一回パタンと地面に横たわる。

「嘘・・・。」

変に記憶力が良いと自負している私にとって、これは不気味としか言いようがなかった。 こんな場所は見たことがない。そう思い、さっきの出来事を頭の中で再現していると「・・・だれ?」と声が小さく響いてきた。


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