花言葉を込めて | ナノ


呪文


「・・・かんぺき、ホラーなんですけど。」
「前からホラーだったじゃない。」

そうアタシが突っ込めば「確かにそうだけどさ・・・。」と不満げに言われる。それを横目に見ながら、アタシはしっかりと前(出入り口)を見つめる。 扉の前にマネキンの顔が。あそこにあっては出るに出られない。

「・・・ほんっと、何が起こるか分かったもんじゃないわね。」
「うーん、出れませんねー・・・。」
「シルフィン。アンタがさっき変な呪文唱えたから召還されちゃったんじゃないの?」
「うえっ!?」

確認のために自分を指さしてみればギャリーに頷かれてしまう。と言うか、変な呪文なんて唱えた覚えは一切無いんだが。

「で、でも・・・シルフィンは悪くないよ?」
「・・・うん、ありがとう。誰かさんと違ってイヴは本当にやさしい子だよ。」

ちょっと、誰かさんってアタシのこと!?と叫び始めたギャリーを軽くスルーしながら、私は出口の方へと視線を向ける。

「・・・・・・って、冗談は置いといて。本当にどうしましょうね、これから。」
「そうよねぇ・・・あいつ、なんか床に張り付いてるみたいで取れなかったのよね。」
「へー・・・って取ろうとしたの!?」

よくもまぁ、アレに触ろうとか思ったものだ。(その言い方は・・・酷いかな、うん、ごめん?) さも当たり前に「ええ、だってこんなところ早く出たいじゃない!?」と言われて、曖昧に頷くことしかでき無かった。 

「うーん・・・じゃぁ、もう一回呪文を唱えてみたらどう、かな?」

結局どうしようと考えているとき、イヴからの助言が聞こえた。

「スパカリファジリスペキオリドーシャス!!とか?」

鏡を見ながら、思い出した呪文を口ずさんでみる。・・・確か、願いを叶えてくださる言葉だったはずだ。

「あ・・・それ、何処かで聴いたことがある。」
「ちょっとアンタ、それ、色々間違ってるわよ。・・・それがあの曲の奴だって言うなら。」
「いいんですー私にはそう聞こえたんだよ!」

そんな文句を言いながら、振り返ってみれば、人がさっきの地点から1,2歩進んだところにそいつは居た。

「・・・・・・。」

心なしか皆の顔が青くなっている気がする。かく言う私の顔色もマネキンみたいに白くなっていることだろう。なんでだろう、魔法の呪文はやっぱり「ビビデバビデブー」なのか。それじゃないと駄目なんだろうか。試しに呪文をマネキンに向かって唱えてみるけれど、何も起こらなかったようだ・・・。薄気味悪く突っ立っているだけだった。その後何が起こるか分からないと言われている呪文やら、人形を目覚めさせる呪文とか、思いつくだけ言っても動く気配はない。

「・・・呪文、出尽くした?」
「多分?」

サンダーとか言ったってきっと動かないだろうし。だって雷を起こす呪文だし。とか言いたいのを堪えながら、私は鏡に頭をつけて考える。ふと横を見れば、心配そうに隙間から覗いてくるイヴの姿が。

「・・・シルフィン、大丈夫?」
「うん、大丈夫。」

・・・この子を心配させちゃいけない。大人でも参っているって言うのに、子供の彼女はもっと辛いはずだ。さっさとこのマネキンを退けて、扉を開けて・・・ん、扉?

「・・・あった。」
「もう、何がよ!!全然このマネキン動かないじゃない!!」

若干苛立ってきているギャリーに、私はゆっくりと首を振る。

「ギャリー、発想を変えるんだ。・・・事件の真相は、至ってシンプル。」
「・・・・・・ねぇ、ちょっと。シルフィンの中ではいつからこれが事件に発展してるの?」
「『マネキンを動かしてから出る』ではなくて、『閉まった扉を開けてここから出る』と、考えるんだ。」
「ちょと!!アタシの話を無視しないでくれる?」

ギャリーがそう叫んでいるときに、じゃぁ、あのマネキンはどうするの?と言われて、私はイヴの質問に返事を返した。

「それは普通に跨ぐか、避けて通れば良いと思わない?」
「・・・・・・ああ!」
「!!・・・成る程、迂闊だったわ・・・。あんな人形、無視して進めば良かったのね!!」

多少上を通るのは恐いけれど、と思いながら私は事件の真相を解き明かす探偵の様なポーズをしながら、鏡を見る。

「と言うことは、脱出するときの呪文はただ一つ・・・。」

これだ!と言いながらマネキンが居るであろう場所に指を突きつけながら、私は呪文を唱えた。


「開け、ゴマッ!!」


マンサクの杖


「あれ・・・居ない?」
指さす場所にはさっきまで陣取っていた白いマネキンは見あたらず。

「あら・・・本当ねって、アンタ、『開け、ゴマ』は無いんじゃないの?」
「でもマネキン消えたし。扉までの道が開いたから、良しとしてよ!」

そう言って、ギャリー達が居る鏡の方を振り向いた瞬間、奴はそこにいた。

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