儚い望み 「うわ、手が動いてる!」 「・・・アンタねぇ、本当に気が付いてなかったの?」 「シルフィン・・・入ってきたときからこの手、動いてたよ。」 2人が信じられない物を見るような目で、こちらを見る。だからあの時2人はここで立ち止まっていたのね、とか思ったりしたけど。 「・・・そう言うの、先に言ってくれませんか・・・?」 気付かなかったんだもの、仕方がないと思ってください。意外に近くで見ると細くて綺麗な指に(なんか動いているけど)ゆっくりと指輪を嵌める。 「ねぇ・・・そういうのって男のアタシの役目じゃないの?」 「旦那さんの目の前で、違う男が指輪嵌めて良いと思ってるんですか?」 気弱そうな旦那さんでも流石にそれは怒りますよ。と言いながら、しっかりと薬指に嵌めてやる。 そうすると、視界がピンクに染まった。何かの攻撃かと思い一瞬目を瞑るも、ゆっくりと目を開けて確認するとそれは攻撃するにはちょっと頼りない物だった。 「ブーケ・・・。」 なんだ、結構ここの美術館の作品って害悪ばっかりじゃないんだ。と思い、少しホッとする。 「シルフィン、花束綺麗だね。」 「そうだね。・・・これ、貰って良いのかな?」 勝手に持っていって、追いかけられても困る。そう思いながら呟くと「良いんじゃない?」とギャリーにそう言われる。・・・信じるからね。と小さく呟きながら、色とりどりの花で出来ているブーケを見つめた。 3人揃って歩いていると、シルフィンの足がだんだん遅くなっているのがわかった。 「シルフィン、どうしたの?」 「んー?いや・・・うん。」 私が聞いても、曖昧な返事しかしてくれないシルフィンの方を見ると、手にはブーケ。気分が悪いのかな?と何となく考えてしまう。 「シルフィン?アンタどうしたの?」 「うーん・・・うん。」 私の声で気がついたのか、ギャリーもシルフィンに声をかける。それでも「うん。」としか言ってくれないシルフィン。そうしていると、ばっとシルフィンが顔を上げる。 「できたー!・・・はい。」 そう言って目の前に差し出されるのは、小さな花束。 「!・・・きれい・・・。」 「えへへ・・・でしょう?」 イヴにもブーケをあげようと思ってさ。と言いながら、少し小さくなったブーケを触ってる。 「何、アンタ・・・警備員の他にブーケ作りでもやってるの?」 「うーん・・・まぁ、そんな感じですね。」 そう言っている2人を気にしないで、さっき貰った花束をじっと見る。色んな色のお花が入っている花束は、何回見ても綺麗で。 「シルフィン・・・ありがとう!」 そうお礼を言うと、シルフィンは笑って「どういたしまして。」と言ってくれた。イヴにお礼を言われたまでは気分が良かった。不安はあったけど、苛々は無かった。 * * * 「あんの青壁野郎・・・。」 折角のブーケをもしゃもしゃ食いやがって・・・!今度またあったときは燃やしてやろうかとか思ってしまう。 まぁ、イヴにあげたのはまだ残っているので、良いんじゃないかな・・・とか自分に言い聞かせるけど、やっぱり怒りがどこからかやって来る。 「まぁまぁ、怒るのはここを出てからにしましょ?」 「・・・うん、そうだね。」 今はここから出る!そして、出たら燃やす!!・・・よし、目標が決まった。もう、進むことだけを考えよう。そう思って、青壁もしゃもしゃ野郎がつくってくれた(?)道を通る。 ・・・ふと通りながら、『でも、あの青壁野郎なかなか良い奴だったのかもしれない。』と言う考えが過ぎった。 「取りあえず・・・出てから考えないと!」 そう決心して、次の部屋へ足を踏み入れる。 「・・・。」 「・・・・・・。」 「・・・うわぁ・・・。」 もう帰りたい。絵の人物の目と目があったとき思った。 食べられたアネモネ 「ゲルテナさんって・・・本当になんか・・・その。」 「・・・シルフィン。言わなくていいわよ。」 そういわれ、言おうとしていた口を噤む。それにしても気味が悪い。何なんだこの・・・。 「マネキン2号の数は。」 back |