朝日に吼えるジズ 戦っている時間などは覚えてはいないが、案外よくやった方だと思う。 「・・・くっ、あっ、チクショっ・・・!!」」 女の顔を蹴るほど非情ではないし、負けてやるほど優しくもない。端から見れば双方とも怪我をしていないように見えても、女の身体の至る所には今頃青あざが出来ていると思う。 「止めも、いるかぃ?」 地面に縫いつけた四肢の上に足を振りかざす。周りからみれば、俺の圧勝。だが、いつも以上に時間がかかったのは事実。 こいつが弱いわけではない。実力としては副隊長格の奴と互角って所か。 「私の・・・負けだっ・・・」 あばらが何本か折れているのだろう、空気を吐き出す声が高い。 「オヤジ、」 視線で、どうすると問えば、思った通りの答えが返ってくる。 「手当してやれ。 あと、マルコ話がある。」 「・・・なんだよぃ?」 エースが女を抱えながら俺も行く!!と叫んでいる。 「まだ朝早いんだ、他の奴らは寝てろ。」 甲板からオヤジの部屋へ逆戻りすると、ベッドに座った親父が片足を叩いて招く。 「もう、子供じゃねぇんだよぃ。」 そんなこと言いつつ座ってしまう自分も、自分なのだが。 「良いじゃねえか。 で、話っていうのはさっきの奴の事なんだが。」 「・・・なんだよい?」 「お前、あいつをどう思う?」 唐突過ぎる質問に一瞬耳を疑ったが、意味をはき違えたんだろうと考え直して口を開く。 「まぁ、強いよぃ。 足手まといにはならないと思うがねぃ。」 先ほどの戦闘の純粋な感想。だが、その答えにオヤジは少し不服のようだ。 「そうじゃねぇだろうが。」 にやり、と口元をあげて白い髭を撫でる指がいつにもまして上機嫌だ。 「おおお・・・オヤジ?! 何考えてるんだよぃっ!!」 「なぁに、そろそろお前も身を固めてもいいかと思っただけだ。」 「っ・・・冗談、 俺はそんな気はねぇよぃ。」 誤魔化すとオヤジは笑った。 「・・・で、オヤジ。 あいつ誰なんだよぃ。」 「昔、この船に乗ってた女の娘だ。」 「それにしたって、じゃじゃ馬にも程があるよぃ!」 なんだかんだで出会い頭に蹴られた傷が疼いて仕方がない。 「・・・ったく、親はどんな教育してたんだよぃ・・・」 傷を押さえながら愚痴るとオヤジは少し考え込んでしまった。 「・・・どうしたんだよぃ?」 「マルコ、俺はあいつを船に乗せようと思う。」 「はぁ? じゃぁ、何で俺戦ったんだよぃ。」 先ほどの乱闘も意味が無くなるようなことをさらりとオヤジは告げる。まぁ、オヤジの気まぐれは今に限ったことでないのも事実。オヤジの決定に逆らう気も無く、「わかったよぃ」と口に出そうとした所でオヤジがゆっくりと口を開いた。 「マルコ、落ち着いて聞けるか?」 「・・・俺は常に落ち着いてるよぃ。」 「あれは、実の俺の娘だ。」 親としてきちんと教育してやらねぇとなぁ、なんて笑うオヤジに言葉を無くした。 「え・・・オヤジ、俺はそんな事一言も聞いてねぇよぃ・・・っ!」 白髭に娘がいる、なんて初耳にも程がある。というか事もあろうに、オヤジの目の前でぼこぼこにしてしまった女がオヤジの娘なんて。 「・・・まぁ、大きく言える事じゃねぇだろう。 俺も普通に育ってるもんだと思ってたんだ。」 「オヤジ・・・申し訳ねぇ・・・」 「なぁに、そんなにヤワじゃねえよ。」 「でもよぃ、「そんなに言うんだったら責任取って、嫁に貰ってやれ。」・・・遠慮するよぃ」 部屋を出るときにみたオヤジの顔は、海賊の顔じゃなくて親の顔をしていた気がする。 「なぁ、オヤジ。 あいつと俺って会った事あるかよぃ?」 「知らねぇなァ。」 「そうかよぃ。」 朝日に吼えるジズ back ・ top |