夜明けに光る不死鳥 「この顔、貴方が一番知ってるはずよ。」 女は返答の何もないオヤジに問いかける。 「・・・知らねぇなぁ。」 オヤジは一瞬、答えることを躊躇った。その一瞬にこちらをみたのは気のせいだったか。否、明らかにオヤジはこの女を知っている。 「そう、まぁ良いんだけどね。」 少し残念そうな顔をした女はすぐに、手元に持っていた鞄を広げる。 「薬が、出来たの。 能力者に何処まで効くのかは解らないけれど。」 話の雲行きが怪しい。オヤジを凝視していると、目配せで部屋から出ろと指示される。だが、ここで俺だけベッドに戻って寝るわけにも行かず、結局オヤジの部屋の前の戸に背を預けて中の様子をうかがうことにした。元々小さい声を出す質でないオヤジの声は戸を通して聞こえるものの、女の声も小さく耳を澄ませれば何とか拾うことが出来た。 『あいつは・・・死んだのか?』 『残念、まだ生きてるわよ。 今はセントポプラで病院を開いてる。』 2人が話しているのは世間話そのもので、少し拍子抜けしたのも事実である。 「昔、馴染みってやつかよぃ・・・」 『だから、私が来たのよ。』 『俺のは病気じゃない。 そもそも治る訳がねぇよ、アホンダラァ。』 『治らないわよ、でも止め置く事なら出来る。』 『目的は何だ?』 中からぴりぴりとした殺気が漏れてくる。 押さえているものの、明らかに大きいオヤジの覇気に眠っていた隊長達も起き出してくる。だが、オヤジの許可が無い以上、勝手に踏み込むことは許されない。 『この、船に乗せて?』 『駄目だ、危険すぎる。』 『男装でもしようか?』 『ッたく、パドルシップでセントポプラまで送ってやる』 『要らない』 『お前みたいな弱いのがいたら、足手まといだ。解るな?』 『強ければ、良いのね?』 勢いよくドアが開いて、聞き耳を立てる事に気を取られていたサッチ、エースはバランスを崩して倒れ込む。 「丁度良く、何人かいるみたいだし?」 「おめぇら・・・ったく、くだらねぇ事ばっかりしやがって・・・」 「「でも、オヤジぃ!!」」 大丈夫なのかよ、とオヤジに駆け寄ったサッチとエースに目配せして、オヤジは豪快に笑った。 「解った、だが俺の息子達は強いぞ?」 「知ってる。」 「何が、どうなってるんだ、こりゃ。」 「知らねぇ顔だな、オヤジの敵か?」 古株の奴らは昔、船に乗っていた女とうり二つの顔を見て首を傾げ、知らないものは、一様に敵意をむき出しにしてくる。 「此処は俺が・・・!!」 鼻の下を伸ばして女の胸元あたりしか見えてないサッチを蹴り飛ばし、やる気を出しすぎて足下から火の粉を散らしているエースを殴る。 「頭を冷やせよぃ。 あいつ、強いよぃ。」 なにせ本気でなかったとはいえ、自分の蹴りを止めたのだから。 「マルコ、出来るか?」 「準備はいつでも出来てるよぃ。」 オヤジが戦えと言うのなら、俺は全力で相手をするまでだ。 夜明けに光る不死鳥 back ・ top |