月光に揺れる小夜泣鳥 カタン、小さな音が甲板から連続して聞こえる。カタン、コツ、コツ、ちゃぷん。 海の揺れる音とは違う水音と、船に何かがぶつかってきしむ音。全く、不寝番の2番隊は何をしているのだろうか。まぁ、隊長格のエースはいつも通り眠りの国なのだろうけれども。 「敵、かよぃ?」 寝かかっていた身体を無理矢理に起こして甲板に出る。聞き慣れぬ物音に、甲板に出てみるとそこには倒れる4人の男共。いわずもがな2番隊の不寝番どもだ。 「ここを、白髭の船と知っての相手かよい。」 2番隊の奴らはこの船のレベルでは船員のレベルだが、船の外へ出ればそれなりの者達。それを音もなく倒すというのは並の芸当では無いだろう。小さな物音のするほうへ行くと倉庫の裏側の海に、ちいさな船がつけてあった。大きさからして少数。この程度なら自分で片づけられる程度の人数だ。わざわざ他の奴らの安眠を妨げるまでもない。 「おい、手前等。 いつまで寝てンだよぃ。」 軽く脇腹に蹴りを入れるも、起きる気配は無い。これは当てられちまってる。音もないところを見ると覇気か。兎も角、こいつ等が起きなければ手がかりは何も無いのだ。まぁ白髭の船に乗り込む奴らの目的は知れている。財宝か、オヤジの首か。 「・・・!!」 オヤジに限ってそんなへまは踏まないと知っているものの、万が一という事もある。急いでオヤジの部屋に向かう途中、見慣れない金髪が視界に入った。柱に上手く隠れたつもりだろうが、残念なことにその金色だけが夜の空に映える。 「・・・誰、だよぃ。」 「・・・!!」 相手も気づかれるとは思わなかったのか、驚いたのが気配で伝わる。お互いを包む空気が殺気に変わるのに、それほど時間はかからなかった。先にしかけたのは、俺。避けられるわけもない、と高を括って蹴り上げたのだが、ひらりと逃げられてしまう。体制を建て直そうとする一瞬の隙に、逆に腹に一発蹴りを喰らった。 「・・・なかなか、やるねぃ。」 でも、やられ放しにはなれない。 負けるわけにはいかないのだ。俺はこの白髭の船の盾なのだから。 「・・・ずいぶんと、大物が起きて来ちゃったみたいだね。」 夜の月を背景に、見やった先には女。月光にゆるやかにカーブを描く金色の髪を光らせながら不適に笑う瞳は新緑。 「も一度聞く。 お前は、誰だよぃ。」 「さぁ、誰でもいいじゃない?」 「っち、 そっちはオヤジの部屋だろぃ。」 コツ、コツ、 女の歩くたび、小さなヒールの音が夜の海に響く。後ろから殺気を出したままついていくと、オヤジの部屋の前で女は止まった。 「そんなに心配なら、ついてきたらどう?」 「言われなくても、そうするよぃ。」 これだけ殺気を出しているのだ。中のオヤジはきっと気づいている。まだ正体も分からない女を部屋に入れて良いのか判断に困ったが、中に入ったとしても、いざとなれば自分もいるのだからどうにかなるだろう。 キィ、ときしむ扉から中に入ると、ベッドの上にやはりオヤジが座っていた。だが、その顔は敵に対するそれではない。一見、厳しい顔つきをしているものの表情はどこか穏やかだった。 「どうした、眠れねぇのか・・・それとも、鼠でも入ったか?」 静寂な部屋で、女の息をのむ音が聞こえた気がした。 月光に揺れる小夜泣鳥 back ・ top |