身を焦がす程の 「エース!!」 「ナマエ 久しぶりだな、元気してたか?」 立ち寄った街の港に彼の愛用のストライカーが寄せられているのを見て、もしかしてとは思っていた。まさか、こんな所であえるなんて思ってなかった。くしゃっとした顔で彼はわらうと、釣られて自分も笑ってしまう。 「何で、こんな所に? オヤジはどうしたのさ。」 世間話を2人でしていると必然的に出てきてしまう話題。彼は少し眉を動かしてから、何でもない、お前には関係ないだろ、と誤魔化す。 「まぁ、こんな所で会えたのも何かの縁だろ。」 そんな野暮な話は無しにしようぜ、なんて良い笑顔で笑われてしまう。 「・・・連絡も寄越さなかった癖に、よく言うわよ。」 「そりゃ、すまなかった。」 「許さない。 でも、私の所に来るって言うなら考えなくもない。」 白髭に心酔しきっている彼が首を振る分けないと解っているけれども冗談で、少し本気を交えて言う。 「そりゃ、無理だ。 俺はオヤジの船の船員だしな!」 「言うと思った。 じゃあ次から暇なとき連絡して。」 エースは忘れてなかったらな、なんてつれない事を言う。 「エースには敵わないなぁ・・・何で?」 「俺が強くて格好いいからだろ?」 確かに強くて格好いいでしょうとも。色目で見なくてもそれは確かなんだろうけど。 「その自信はどこから来るのよ・・・」 少し大げさにため息をついてみても、エースはニコニコした表情でこちらを見つめている。こんなやりとりをしては居るものの、ずっと前に白髭の船に一時的にやっかいになっていた時はもう少し違った様に思う。あの時は今とは逆にエースの方が顔を赤くしながら色々試行錯誤していた気がしたのに。まだ好きとか、愛してるとか、言ったことも聞いたことも無いけれど、確かに近い感情を持っていてくれたんじゃないかな、と思う。 もしかして自意識過剰だったのだろうか。だとしたら、かなり恥ずかしい。 「ナマエ、 俺が最後にお前に会ったときに言った言葉覚えてるか?」 最後にあった時、っていえば白髭の船から降りるときに何か言っていた気もするが、他の船員の声に混じって聞き取れなかったのだ。 「あ・・・エース、そういえば私が船降りる時に何か言ってたよね。あれ、何?」 「聞こえてなかったんなら、いいんだ!」 「まぁ、言いたくないなら良いけど。」 ふと青空を見上げたエースの視線を追うと、上空に黒い影。街の上を旋回する一匹の大きなカラスの足に結ばれた黄色のハンカチがひらひらと舞っている。 「あ、ナマエ。 あれ、なんだ?」 「あー、集合だってさ。」 古典的だが、空という共通のものを見ることで一瞬でわかる自船の合図。赤色は警戒、黄色は集合、というように同じ場所に散らばる仲間に伝わるようにと決めている。 「もう、行くのか?」 「ログが溜まった合図だったら、そのまま出航だけど。 寂しい?」 「いや、また会えるだろ。」 被っている帽子を深く被り直しながらエースは断言した。 「・・・相変わらず、すごい自信ね。」 「俺には、コレがあるしな?」 エースが笑って帽子の中からとりだした紙にはインクで自分の名前が雑に書かれている。その文字以外は染みひとつない白い紙には見覚えがあるが、作った覚えもないし、渡した覚えもない。風に逆らって自分に向かって引き寄せられている紙は確かにそれでも本物である。 「・・・どうやって作ったの、それ。」 「あ、お前が船を降りてからベッドから髪の毛を少々頂きまして。」 「エース・・・欲しいなら、言えばあげたのに。」 なにもそんな事をしなくても、というかベッド漁ったのか・・・なんて少し思ったり。 「その時は、考えつかなかったんだよ。」 そういうエースはすこし照れたように笑う。ビブルカードが手元にあったなら今回、私に会ったのは縁でも偶然でも無かったのだろう。 「それで、次はいつ会いに来てくれるの?」 「気が向いたらな!」 「連絡も無し、会いにきてもくれなかったら、今度こそ忘れるかもしれないけどね。」 『おれは、俺はお前のこと、一時たりとも忘れた事はねぇよ。』 その言葉に振り向くと、後ろから走ってきた彼に抱きしめられる。普通の人より少し高い体温の彼の素肌が、自分の肌に当たってちりちりと身が焦げるように熱い。 「お前だって、そうだろ? ナマエ。」 「・・・馬鹿。」 「違うのか?」 「違わないから、腹が立つのよ。」 燃え尽きて骨も残らぬ程、 back ・ top |